「マズロー理論」、すなわち「生理」・「安全」・「所属と愛」・「承認と尊敬」・「自己実現」のいわゆる「欲求5段階説」は果たして何のために考えられたのであろうか、と言う疑問に筆者長年思いあぐねていた。
エビデンスがあってそう言ったのではないとか、あまりにも芸術的だとかの批判も耳を傾けるべきところは多かった。
もしこれが「人間の心理的成長」にかんする理論だと言われれば、やはり僕の中には強い反発がある。
しかし、最近気づいたのは、この「マズロー理論」は本来のターゲットが健常者だと考えられてきたのが過ちで、マズローの臨床活動から得られた洞察だと言われれば、ある程度腑に落ちる、と言うことだった。
そうなのだ。この理論は「成長理論」などではなく、「精神疾病の心理的病因論」だと考えれば良いのである。
生理的欲求が満たされないならば、人間はただの獣になる。
安全欲求が満たされないならば、反社会的人格になる。
所属と愛の欲求が満たされないならば、うつその他や人格障害になる。
承認と尊敬の欲求が満たされなければ、モンスター人格になる。
自己実現の欲求が満たされないならば、適応障害になる。
筆者なりのマズローのリーディングは、かくして精神障害論へと様相を変える。
