超短編創作童話「本当の美」

 地球の彼方から異星人がやってきました。私たちと違って、彼らにとっての音楽における美の源泉は「音感のいびつさ」なんだそうです。  

 で、私たち地球人にとって歌唱力の素晴らしい歌手と音痴な凡人の歌を異星人に品評してもらった結果、異星人たちにはこぞって音痴な凡人の方が素晴らしい、と評価されました。  

 地球人には理解しがたいのかも知れませんが、異星人曰く、「音感がいびつな音痴のひとの方が露骨な音のコントラストしか感じられず、その感覚に沿った歌を思い付きやすいので、楽譜も楽器もいらない一度聴いただけで記憶に残る名旋律ができる」のだそうです。  

 いったい、人間にとっての「美」とか「素晴らしさ」と言うのは「技」なのか「心に残ること」なのか「感動すること」なのか。  

 いずれにしても、どうやら私たちには、まだ「神様にとっての美」を感じられる耳がないらしいのです。

大人の短編創作童話「殿様の評判」

 昔、とある藩のお殿様が家臣たちに言いました、「わしの評判を落としてくれ」と。  

 家臣たちはお殿様が考えていることをいぶかりながら、言いつけ通り民たちに殿様の悪い噂を競って流しました。  

 やがてあるひとりの家臣が殿様泣かせの面白いことをして民たちのなかで評判の良い噂話が流れ始めました。民たちはその家臣に競って兵糧を出したのでした。  

 相変わらず殿様の評判は良くはなかったのに、殿様はそれを喜びました。なぜか。  

 誰も知らなかったのだけれども、その家臣は殿様の腹心で、民たちが貢いだ兵糧を密かにその手中にしていたからなのでした。

超短編創作童話「お日様と陰」

 ある日お日様が神様に「陰を見たい。なぜならそこには素敵な宝物があるかも知れないから」と言いました。  

 それと同じ時に陰が神様に言いました。「お日様を拝みたい。なぜならそこには素敵な光があるから」と。  

 神様はすべての存在に良いように考えるので、夕暮れと夜明けをお日様と陰のために作ってあげたとさ。  

 おしまい。