講座 心理学概論 12 臨床心理学 8 防衛機制

 自我が現実に適応するために用いる心の戦略のことを「防衛機制」と呼ぶ。フロイトは「抑圧」と「昇華」の2つの防衛機制を指摘していたが、その娘のアンナ・フロイトは1936年の「自我と防衛機制」の中で15の防衛機制を列挙している。この節ではそれらの防衛機制について説明しよう。   

 「抑圧」は、認めがたい感情や対象認知・記憶を無意識下に押しやることによって、心の平静を保とうとする防衛機制である。たとえば、筆者のように学生時代家庭科の成績が5段階評価で1だったことをできるだけ意識に上らないようにするとか、先の震災の被災者が震災の時のことを思い出したがらない、と言った心の働きである。  

 「否認」は、自分にとって都合の悪い事象を認めようとしないことである。たとえば、仮面大学生が周囲に仮面大学生であることを告げないとか、過去の自分の過ちを認めようとしないなどである。   

 「摂取」は、自分に他者の何かを取り入れることである。たとえば、自分の恋人の好きなアーティストを自分も好きになるなどである。  

 「同一化」は、相手と同じ気持ちを抱くことによって他者との一体感を得ることである。中でもいじめなどでよく働く心理的メカニズムとしてみんながいじめっ子に同調するような「攻撃的同一化」は社会問題である。  

 「隔離」は、感情と行動を切り離すことによって心の安定を守ろうとすることで、これがひどくなると「解離性人格障害」にまで発展する。  

 「知性化」は、たとえば思春期の子が性的衝動を感じた時に決まって性的なコミックソングを歌うなど、心を知性で落ち着かせようとする心の働きである。  

 「合理化」は、自分を正当化するために思い付いた理屈を主張するなどである。自分の行動がやましいときに、他者にはもっともらしい言い訳をするなどがこれに当たる。

 「反動形成」は、自分が相手に抱いている本当の感情とは逆の感情行為を行うことである。子どもが憎いのに過保護になる親の心理などがこれに当たる。  

 「復元」は、隔離された行動などを何度も繰り返すことを言う。強迫神経症の患者が何度も手を洗うとか何度も鍵がかけてあるかを確認するなどである。  

 「置き換え」は、本来すべきことを別の行動にすり替えることである。ストレスがあるひとがストレッサー自体を除去することなくタバコを吸うなどがこれに当たる。  

 「投影」は、自分の不快な感情を謂れのない環境のせいにすることである。たとえば事件の被害者が自分の落ち度なのに警察のせいにするなどである。  

 「退行」は、自分の歳相応の行動をすべきところを幼いころ・若いころの行動に後戻りすることで急場をしのごうとする心理機制である。いわゆる「赤ちゃん返り」である。  

 「昇華」は、もともとの欲求をその欲求が欲するところとは別の行為で代償しようとすることである。有名なのは性的衝動を芸術活動に変えるなどである。  

 「補償」は、失ったものを別の対象で満たそうとすることである。夫を失った妻がペットに異常に愛情を注ぐなどである。  

 「投影的同一化」は、いわゆる「下衆の勘繰り」で、たとえば自分が異性を求める気持ちがあるときに他の独身男性を見たら「あいつも嫁さん欲しいだろうな」と勝手に憶測するなどである。  

 以上であるが、筆者などは身につまされることが多い。読者の皆さんはどうであろうか。  

 ちなみにこれらの防衛機制については、本来の心理学のトピックではないが、面白いと言う理由で高校の倫理社会などの教科書には載っていて、「懐かしい」と思われる読者の方も少なくないであろう。まぁ、一種の人間関係をスムーズに進める潤滑剤的なトピックとして覚えておいて損はない話である。

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