講座 心理学概論 12 臨床心理学 5 精神疾患

 この節では主要な精神疾患である統合失調症、うつ病、パーソナリティ障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)について概説しよう。  

 いかなる文化圏にあっても、人間が80人いれば1人は罹患することが知られている統合失調症は、症状から大別すると3つのタイプがあるようである。  

 ひとつは幻覚や妄想に特徴づけられる「妄想型」、ひとつは思考や行動が支離滅裂な「解体型」、そしてもうひとつは運動不動(カタレプシー)や過活動・拒絶・無言・奇妙な姿勢や動作に特徴づけられる「緊張型」である。この疾患はクレペリンによって1899年に「早発性痴呆」と命名されたのを発端として、1911年にはブロイラーによって「精神分裂病」と呼称が変わり、我が国においてはこの呼称に誤解を招く要素があるとして2002年に「統合失調症」と呼称が変更された。すべての患者に認められる症状として、陽性症状(幻覚・妄想・思考障害・自我障害)と陰性症状(ひきこもり・感情の平板化・無関心)があり、病因としては「ドーパミン仮説(ドーパミンの欠如が幻覚や妄想を引き起こすと言う仮説)」が有力視されており、脳の報酬系を活性化させる薬物療法が治療の基本である。  

 統合失調症の妄想型の患者が「神様が殺せと言った」とかの幻聴が原因で引き起こす殺人などは、まれだとは言い難い。医師にそこまでの鑑別の余裕がないのだとしたら、今般新設される国家資格である公認心理師がこの作業に精力的に取り組まないと、何の落ち度もない人間がいとも簡単に殺されてしまうので、喫緊の課題だと言えよう。  

 次にうつ病について述べよう。アメリカ精神医学会の「精神疾患の診断マニュアル(DSM)」ではうつ病は「気分障害」と記述されている。うつ病は精神疾患の中でも飛びぬけて罹患率の高い精神疾患で、全人口の20パーセント程度が人生で一度は罹患すると言われている。  

 うつ病にかかりやすい性格として、真面目で几帳面な頑張り屋さん(メランコリー親和型性格)に多いと言われている。病態は、体がだるい、腰が痛い、眠れない、ひきこもり、自責の念が強い、食欲と意欲の不振などさまざまで、特に特徴的なのは未来を否定する認知様式や休むに休めず頑張るに頑張れないいわゆる「ぐるぐる思考」が挙げられる。  

 うつ病の病因としては、精神を穏やかに保つセロトニンの欠如が挙げられており、現実に治療には「セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)」が用いられている。基本的に治療の大前提として安静が必要である。  

 さて、次はパーソナリティ障害である。この障害には下位分類が多いのであるが、概ね一般的な特徴は、社会常識とかけ離れた思考や行動の様式である。就中注意が必要な疾患に「反社会性パーソナリティ障害」があり、しばしば「サイコパス」と呼ばれている(中学生以下の場合は「行為障害」と診断される)。名古屋大学女子学生による殺人事件などはこの範疇に入ると考えられる。この障害には主に臨床心理学的治療が適用されるが、治療に対する患者の心理的抵抗が大きい場合が多いので、じっくり時間をかけて治療関係を築くことが一番肝要である。  

 最後に、PTSDであるが、この病気は日常の精神状態の許容を超えるネガティヴな非日常的体験のあとで1ヶ月以上続く焦燥感やフラッシュバック、感情の麻痺に特徴づけられる疾患である。

 PTSDの原因としては自然災害や拷問・レイプ、交通事故、虐待などが挙げられる。治療は薬物療法と臨床心理学的治療の併用で行われることが多いが、あまりにトラウマが重い場合には解離性遁走(いわゆる「記憶喪失」)などの精神疾患に移行することもある。  

 いずれの精神疾患にも、精神科医と公認心理師、ソーシャルワーカー、看護師から成るチーム医療が望ましいが、現状では各者ひとりで抱え込むことが多く、改善すべき課題と考えるべきである。  

 なお、筆者なりの統合失調症・うつ病・てんかん(ここでは触れていない)の病態および治療上のヒントは以下の記事を参照のこと。

 https://blogs.yahoo.co.jp/tottsan0912/34072137.html

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