講座 心理学概論 11 人格心理学 9 人格と他の諸変数

 さて、この章もこの節で終わりとなるが、最後に「人格と文化」、「人格と健康」について概観しておきたい。  

 まず、「人格と文化」であるが、先に触れたニスベットの「線分課題」に現れているように、東洋では「相互協調的世界観」を持っているのに対し、西洋は「相互独立志向世界観」を持っている。  

 このように、どのような社会にひとが生まれるかによって、その文化における平均的な世界観を持つ人格は変わってくる。  

 日本文化の特質としては他にも土井健郎がその著書「甘えの構造」で指摘した「甘え」とか「義理人情」などが挙げられる。  

 洋の東西を問わず文化による人格の規定因の中でも特に注目されるべきものは、「ジェンダー」である。どこの地域においてもある程度共通する「ジェンダー」が観察できる。  

 それによれば、男性は「勇猛果敢で決断力に満ち」、女性は「受容的で慈愛に満ち優しくておしとやか」と言う「ジェンダー」が認められる。そのような「ジェンダー」を分化することによって我々の社会が成り立っていると言う側面は大きい。  

 さて、次に「人格と健康」であるが、心理学的にひとによって程度の異なる注目すべき諸変数がある。  

 まず、「フラストレーション耐性」が挙げられる。ひとによってフラストレーションを感じても大した精神的ダメージにならないひともいれば、大きく精神が参ってしまうひともいる。  

 次に「曖昧さへの耐性」が存在する。白黒つけなければ我慢できないひともいれば、お茶を濁すのを好むひともいる。  

 特に近年、人格心理学で良く取り上げられる人格の健康さを考えるうえで重要な3つの概念がある。ひとつは「ハーディネス(頑健性)」であり、次に「レジリエンス(回復力)」であり、最後に「センス・オブ・コヒアランス(首尾一貫感覚)」である。  

 ひとつずつ見てゆこう。  

 「ハーディネス」と言うのは、強いストレス下にあっても「心が折れない」ことであり、言い換えると「人格のタフさ」だと言える。  

 「レジリエンス」と言うのは、逆境に置かれたり精神が参ってしまったりしても、「立ち直る力」のことである。コバサによれば、その構成要素として「コミットメント(自我関与)」、「コントロール(統制感)」、「チャレンジ(挑戦)」の「3つのC」が挙げられると言う。  

 「センス・オブ・コヒアランス」についてはアントノフスキーがその構成要素として以下の3側面を指摘している。ひとつ目に「世界を秩序立てて理解する能力」である「把握可能感」、ふたつ目に「問題に人間的資源を十分持って臨める」と言う「対処可能感」、最後に「問題に挑戦すること、挑戦したことには意義が感じられる」と言う「有意味感」である。  

 先にも軽く触れたが、テイラーは「健康なひとほどポジティヴな幻想を抱いている」ことを報告している。これを「ポジティヴイリュージョン」と呼び、「平均以上効果」、「コントロール幻想」、「非現実的な楽観主義」の3要素があると言う。  

 特に「コントロール幻想」と言うのはロッターの「統制の座」と言う考え方の延長上で出てきた概念で、ひとが自分の健康について「自分の健康は自分が統制している」と感じるほどひとは積極的に健康行動を起こし、健康を維持しやすいと言う知見が報告されている。  

 最後に、それらを理解しやすいように要約すると、ひとの健康は「主観的ウェルビーイング(主観的多幸感)」にある程度依存する、と言うことである。ただし、だからと言って暴飲暴食したり不摂生をすれば、当然健康上の奈落の底に突き落とされることは忘れるべきではない。

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