講座 心理学概論 11 人格心理学 8 さまざまな人格

 読者の皆さんの周りには、やたらと権力とか権威にこだわるひとはいないだろうか。  

 筆者の祖父の時代(明治時代)は、「長幼の序」と言うことがやかましく説かれ、ひとびとの中に「権威主義的パーソナリティ(権威主義人格)」が少なからずいたと筆者はよく祖父から聞かされたものである。  

 特に日本の戦前の軍隊は、規律第一主義で後「権威主義的パーソナリティ」の人間が少なからず現れた。  

 社会心理学の章ではあまり深く考えはしなかったが、物事に対してひとびとがお決まりのように抱いている考えやイメージのことを「ステレオタイプ」と言う。  

 このステレオタイプが否定的なものであるときにそれは「偏見」と呼ばれ、それに加えて選別的な場合には「差別」と言う。こうした問題を解消する一番の特効薬は、さまざまなひとびとが交流できる環境づくりに求められる。  

 「権威主義的パーソナリティ」の人間は権威に盲目的で、偏見や差別に走りやすい。  

 このような人格が形成されてしまう一番の要因は、軍隊の規律にしても増幅要因なのであるが、厳格な人間関係にあると見られている。  

 目先を変えてみよう。  

 子どもが愛情飢餓の状態で育てられるとどうなるのであろうか。大人になったときその補償を求めて自己顕示欲の強い人格になるであろうことは想像に難くない。いわゆる「構ってちゃん」である。  

 また、うわべだけの親子関係は、潔癖症の子どもを育ててしまうであろう。  

 もし子どもが親に虐待されて育つと、情緒不安定で心に余裕のない人間に育ってしまうことも容易に想像できるであろう。普通の子どもは、親が少しまずいことをしながら子どもを育てると、親を反面教師にして育つのであろうが、虐待されて育った子にはそう言った精神的余裕はなく、親が自分にしたように、自分も子どもができると虐待に走りやすい。虐待されて育ったひとの実に30パーセントはそのような「虐待の世代間伝播」に陥ると報告されている。  

 他にも、溺愛されて過保護で育った人間には自己愛の強いギリシャ神話に出てくるナルキッソスのような「ナルシスト」が育ってしまう。  

 また、幼い頃や成人してから心理的に強いショックを経験するとそれがトラウマ(心の傷)となって恐怖症や強迫性障害に罹患するひとになっていく。  

 そもそも人間が育つ過程で、以前にも述べたようにサメロフとチャンドラーの提唱している「気質と養育環境の相乗的相互作用モデル」で述べられているように、人間の性格と言うものは、気質の主体である子どもとそれを取り巻く社会との相互作用によって形成されていく。  

 気質と言うのは他の人格特性よりもはるかに遺伝寄与率が高い、つまり遺伝によるところが大きい人間の性格の種のようなものである。  

 行動遺伝学を研究しているクローニンジャーは、刺激探求、罰回避、報酬依存、持続性の4つの人格特性は遺伝からくる気質であり、自己志向、協調性、自己超越の3つのそれは環境によって規定される力が強いと考え、TCI性格検査と言う心理査定のツールを開発している。  

 たとえば気難しい赤ちゃんを母親が授かったとする。気質は頑健でそう簡単には変容しないので、母親は子育てに神経質になるだろう。母親が神経質に振る舞えば振る舞うほど赤ちゃんの気難しさは増幅されていくであろう。無論、乗ったりそったりの人間関係を多く体験してきたひとも気難しくはなるであろうが、それは気質のレベルの話ではない。  

 この節ではさまざまな人間の人格とその環境としての発生母地について考えてみた。

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