講座 心理学概論 11 人格心理学 7 人格査定

 特性論の節で人格の査定を行う時に用いられる主な質問紙についてはすでに触れたので、ここでは残る人格査定(アセスメント)の方法である投影法と作業検査法について概観する。  

 投影法と言うのは、何らかの曖昧な刺激や問題場面を見て、それを被験者がどう解釈するかと言うことにそのひとの人格が現れると言う考えに基づいた心理査定の方法で、それゆえ投影法と言われている。  

 作業検査法とは、何らかの心理的作業をさせることで作業成績の時系列的変化を見ることによってそのひとの人格を推定するタイプの心理検査である。  

 まずは投影法の心理検査から概観してみたい。

 心理査定に投影法を導入した最初の研究者はロールシャッハである。彼は2つ折りの紙の一方にインクを垂らして模様を付け、それを2つ折りの両者に染み込ませることで左右対称の図版を10枚作った。ただ黒インクを垂らしただけのものからいくつかの色のインクを垂らしたものまである。  

 ロールシャッハ自身、この図版を発表するに当たって彼の考えを述べた書籍を出版しているが、彼は図版を公表してからわずか1年としないうちに夭逝してしまった。したがって彼自身の書物には書いていないところをさまざまな心理学者が補完しようと様々な見解が現れた。ベック法、クロッパー法、ヘルツ法、ピオトロフスキー法、ラバポート・シェイファー法と言ったいわゆる「5大系」が成立し、我が国では「片口法」が普及したが、最近では結果のコンピューター処理も可能な「エクスナー法」がアメリカ・日本でも急速に勢力を伸ばし続けている。なお、この検査で見られるのは個人の知覚や感情の特徴と傾向である。  

 ロールシャッハ法とは異なり、ある程度具体的な場面を提示して反応を見る投影法の検査として、TATとP-Fスタディがある。TATもP-Fスタディも具体的なひとが場面的に描写されている図を見て、TATならその図の表しているストーリーを被験者に考えてもらい、P-Fスタディでは図中の2名の人物のやりとりの空欄になった1名の吹き出しの内容を答えてもらう。前者はロールシャッハテストと同じような内容を測定しようとするもので、後者は個人の「責めのスタイル」を明らかにできる。  

 この他にも有名な投影法として精神鑑定によく用いられる文章完成法(SCT)やコッホの考案したバウムテスト、バックの考案したHTPなどがある。  

 では、作業検査法にはどのような心理テストがあるのであろうか。  代表的なものは、クレペリン検査、ベンダー・ゲシュタルト検査、ベントン視覚記銘力検査、ブルドン抹消検査である。  

 クレペリン検査は一度は受けられた読者も多いであろう。ひたすら隣り合う数字の和を出し、一桁目の数字を書いてゆく検査である。  

 ベンダー・ゲシュタルト検査は同じパターンの図形をいくつも描いてゆく検査である。  

 ベントン視覚記銘力検査は、10枚のカードを提示され、それを思い出すタイプの心理テストである。  

 ブルドン抹消検査は、最初に示された図形と同じカテゴリーに属する図形を次々と抹消していく検査である。  

 クレペリン検査やベンダー・ゲシュタルト検査、ブルドン抹消検査は集中力や持続性を測定することを目的としているが、ベンダー・ゲシュタルト検査やベントン視覚記銘力検査は記憶力を見るためのテストで認知症などの検出に用いられる。  

 クレペリン検査は先述のように、さまざまな学校教育や就職の際の「仕事ぶり」を予測するための適性検査に用いられることが多く、一部知能検査の要素も併せ持っている。  

 その他の作業検査法の諸テストは、心理臨床の場面で用いられることが多い。  

 いずれにせよ、検査の濫用と慢心にだけは陥ってはいけない。

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