講座 心理学概論 11 人格心理学 6 自己概念

 読者の皆さんは、「自分と言うものはこういうものである」と言う認識を恐らくお持ちではなかろうか。  

 この、自分とはどう言うものかについての認識のことを人格心理学では「自己概念」と呼んでいる。  

 しかし、人格心理学において「自己概念」と言うものはなかなか定義のできない問題であるとエプスタインは指摘している。  

 人間は、どのような自己概念を持っているかによって、さまざまな思考や行動のパターンを規定されている面がある。たとえば自分がシャイだと感じているひとは人前で自分をさらけ出すこと(自己開示・自己提示)に抵抗を感じるであろうし、クラスの人気者と言う自他ともに認める認識を持っている子どもは他人とのかかわりに積極的なアプローチを見せるだろう。

 このように、自己概念にかかわる自己にかんする情報を探し求める過程のことを心理学では「バイアスドスキャニング(biased scanning)」と呼んでいる。 

 そもそも「自己概念」と言う考え方が心理学に出現したのはウィリアム・ジェームズが、「自己」と言うものには3種類あり、それぞれ「物質的自己」、「社会的自己」、「精神的自己」であると言ったことから人格心理学の重要なテーマとして取り上げられるようになったと言う経緯がある。  

 では、どのようにしたらひとの「自己概念」を我々は知り得るのであろうか。

 初期の試みとして有名なのは、ブゲンタルとゼーレンが1950年に発表した「W-A-Y技法(Who are you技法)」であり、この方法では「あなたは何者ですか」と被験者に問いかけ、3つまで答えさせると言うものであった。しかし、この方法で自己のどの側面や個人にとっての重要な自己の特質を把握することは難しく、その限界が指摘されていた。  

 「自己概念」を見る有力な方法として今日でも用いられている方法は2つある。  

 ひとつは、ロジャーズが考案した「Q分類法」と言う方法で、性格語の書いてある54枚のカードを自分にとって重要だと思う順に並べていく、と言う方法である。  

 そしてもうひとつは、ケリーが考案した「レップテスト」であり、この方法では自己概念を個人的構成概念と捉え、様々な自分についての構成概念を組み立ててゆくことが求められる。  

 自己概念と言うものは、自然や人間とのかかわりの中で形成されてゆく。たとえば、家族などで「この子は面白い」と見られると、その内面化が進み、その子の自己概念になるわけである。  

 一般に、自己概念と言うのは個人の中で比較的継続して認識される自分についてのイメージであり、一時的な状態、たとえば「疲れている」とか「酔っている」などの個人の経験は含まれない。  

 自己概念と自我関与(感情的巻き込まれ)には密接な概念定義上の関係がある。ひとは一般に自己と考えているものには感情が生起しやすく、したがって自己概念と言うものは自我関与していることだと考えることもできる。人格心理学のパイオニアであるオールポートは「自我関与していないことによって実験が試行的になることは驚くには値しないこと」だと述べている。  

 たとえば、学校で試験を受けることよりも、ギャグやジョークを飛ばすことに自我関与している子どもは、試験よりジョークを飛ばすことに生きがいを感じることであろう。このように自己概念と自我関与には密接な関係がある。  

 先に出てきたエプスタインは、自己概念は科学哲学で言う理論と同じ働きをすると指摘している。そして、自己概念と言うものの正体は「自己理論」と言うべきものであって、科学哲学で理論が良い理論である条件と同じように、自己理論もそのような条件があると言う。それらは、外拡的か、節約的か、経験的に妥当か、内的に一貫しているか、検証可能か、有用かと言う6つの属性で、それらによって「自己理論」は評価されうる、と主張した。  

 もし自己概念と他人が自分に対して持っているイメージがかけ離れていると、「空気が読めない」とか対人関係における不適応に陥りやすい。  

 タジフェルとターナーは、自己概念について「社会的アイデンティティ理論」を提唱し、自分が属している社会によってひとが自己定義すると主張し、ひとたび自己定義された社会には「内集団びいき」をする傾向を人間は示す、と指摘している。  

 いずれにせよ、主観的な自己概念と社会が自分に感じている印象を常に意識しながら行動することが適応的な社会生活には不可欠であることは間違いのない事実であろう。

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