講座 心理学概論 11 人格心理学 5 特性論

 類型論はひとをタイプに分けることで思考の節約になるのではあるが、あまりにも杓子定規なため、ひとの心の皺襞までは何も語らない。  

 そこでひとをタイプ分けするのではなくて、ひとのさまざまな側面(特性)の強弱をそれぞれ測定することによってひとの人格を理解しようとする「特性論」と言う考え方が人格心理学では現れた。  

 特性論の始まりまで遡ると、オールポートとオーベルトが「人間理解のための枠組みはさまざまな人格表現語を調べることによって得られる」とする「基本辞書仮説」と言う仮説を立て、性格表現語のピックアップすることにその起源を求められる。  

 この考えを医療現場における人格診断に用いるために、アイゼンクはモーズレイ病院と言う医療機関において2つの基本的な人格特性すなわち「内向-外向」、「神経症的傾向」を測定する「モーズレイ人格検査」と言う心理検査を開発した。  

 この心理検査が成果を上げ出すと、さまざまな人格理論家がさまざまな人格検査を考案し、世間に流布することとなった。  

 代表的なものを挙げると、ハサウェイとマッキンレイがミネソタ大学で作成した550項目の質問からなる「ミネソタ多面人格目録(MMPI)」やゴーフの考案した480項目からなる「カリフォルニア人格検査(CPI)」、キャッテルが人間の16の特性を測定するために作成された「16PF」、ギルフォードが考案し我が国仕様に作られた120項目からなる「矢田部ギルフォード性格検査(Y-G性格検査)」、バーンの交流分析と言う人格診断を基本とした「エゴグラム」などがある。  

 人格を診断するのに我が国で最もよく用いられるのは「モーズレイ人格検査」と「矢田部ギルフォード性格検査」である。用いられる理由は、質問項目が少ないにもかかわらず得られる人格情報が多いためである。  

 次に我が国で特に医療現場でよく用いられる人格検査として「ミネソタ多面人格目録」が挙げられる。質問項目が多いので実施には時間がかかるが、かなり細かな人格情報が得られるので臨床では活躍している。回答者が意図的作為的に偽った回答をしているかどうかを見る「虚偽尺度(ライ・スケール)」もあるので、質問項目への回答の信頼性が担保できるわけである。  

 近年、人格特性を5つに集約する「特性5因子論」と言う考え方をテュープス、クリスタルとノーマンらが提起し、またたく間に全世界に広がった。それらを測定するための人格検査である「NEO-PI-R」も我が国では普及している。5因子とは、「外向-内向」、「神経症的傾向」、「経験への開放性」、「協調性」、「誠実性」の5つのことで、これらは「ビッグ・ファイブ」と呼ばれている。  

 人格特性の中で就中「不安」に焦点を当てた心理テストも多く開発されている。よく用いられるものに「ハミルトン不安評定尺度(HARS)」、「臨床不安尺度(CAS)」、「状態-特性不安目録(STAI)」があり、その中でもSTAIは最もよく用いられる。  

 STAIは2種類の不安を測定できる。「自尊心(セルフ・エスティーム)」のところで、人格特性としての「特性自尊心」と状況によって変動する「状態自尊心」に分けられると述べたが、それと同じで「特性不安」と「状態不安」の両者を測定できるのである。  

 最後になるが、最近では「野心家ほど心臓冠状動脈疾患にかかりやすい」とか「感情を抑えるほどがんにかかりやすい」と言った知見が報告されており、そのためのチェックリストも作られてる。前者を「タイプA人格」、後者を「タイプC人格」と言う。最初に「タイプA人格」を見出したのはフリードマンで、「タイプC人格」を見出したのはテモショックであった。  

 特性論に基づく人格検査の中には臨床的価値の大きいものも多く、盛んに活用されている。

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