講座 心理学概論 11 人格心理学 3 人格の形成因

 ひとはどのようにその性格なり個性なりを形成するのであろうか。  

 筆者実を言うと、人格心理学における「氏(nature)か育ち(nurture)か」論争にかんしてちょっとした一家言を持っている。  

 皮肉なことに、行動主義心理学が極端な経験論の立場を補強するために存在したように、動物実験を通してそれを実証しようとしたが、筆者野生のドブネズミの気性がとても荒いのに対して、実験用に飼育されたアルビノラットはみなすべからく気性が非常に穏やかなことにすでにその答えはあるではないか、と思うのである。  

 一方で、3匹ネコが産まれると、1匹はとても社交的で、もう1匹は臆病で、その他の1匹はそれらの中間的性格を有するというお話をみなさんは聞いたことがないであろうか。  

 そんなことから、哺乳類も高等になるに従って気質の遺伝規定性は強まるように思われるが、そのことに確かな保証はないように感じている。人間におけるコホート(時代群比較)研究や産まれ順の気質研究、また境遇と処遇の環境のかなり産まれてから早い段階からの研究に俟つ以外はないと考えられる。  

 フロイトは、子ども時代に盲目的な欲求・衝動としての「イド」が親のしつけなどの親とのかかわりの中で内面化された親の規範である「超自我」と人格的な折り合いをつけるために「自我」が発達すると考えた。  

 ミードは役割理論の立場から、子どもは母親と言う「重要な他者」とのかかわりの中で人格は規定されていくと考えた。これに類似した理論としてサービンの「認識生成論」があり、フロイト理論とミードの役割取得理論を取り入れたユニークな理論になっている。  

 オーズベルはその「衛星理論」で、子どもは親の「衛星(サテライト)」として存在することによって人格が形成されると考えた。  

 ボウルヴィは子どもの性格形成には母親との「愛着(アタッチメント)」が重要で、これが2~3歳の間に剥奪される(マターナル・デプライベーションされる)と後の性格形成に好ましくない結果をもたらすと言った。  

 一体、人間の性格形成とはどのようなプロセスで進むのであろうか。  

 行動遺伝学の創始者であるプロミンは、性格の持つ遺伝寄与率は30~50パーセントであることを報告している。つまり、親に顔立ちが似るように、人格もある程度は親から引き継いだものであると言えよう。  

 筆者が考えられる人格の環境的影響因として、人間関係とライフイベントの大きく分ければ2つのファクターが絡み合うことが考えられる。  

 先ごろ「東日本大震災」と言う甚大な被害の出た巨大地震があった。その中で心理的外傷性ストレス障害(PTSD)に罹患したひとは少なくない。  

 そこまでいかなくても、ポジティヴな意味でもネガティヴな意味でも褒められたり罰せられたりなどして徐々に人格が形成されていくことは誰の想像にも難くはないであろう。  

 特に先述した人格理論家たちが言っている子ども時代の人間関係とライフイベントは人格形成にとって大きな役割を果たす。  

 子ども時代の愛情飢餓や過保護がもたらす心理的問題は多い。愛情飢餓に陥った子どもは「構ってちゃん」とか潔癖症になりやすいし、過保護は権威主義的パーソナリティとか王様気取りに子どもの心を向かわしめる。親は「つかず離れず」の関係で子どもを育てることが重要だと言えよう。  

 ところで、あるアメリカの研究者は、性格の規定因をすべて考えてみたところ、「出生地」とか「名前」などを含む100以上の項目があると述べている。何が子どもの間で問題にされ、どう扱われるかによって子どもの性格が規定すると言う事実は確かに否定できない。  

 しかし、子どもにとって親と言うものが一番大事だと言うことは間違いのない事実であろう。親は子供にとっての社会や文化のエージェント(媒介者)として子どもの社会化を促進する。親が子どもを受容的に接するのと拒否的に接するのでは子どもの心の安定を大きく左右してしまう。  

 それだけではない。親の不仲は子どもの心に暗い影を落とす。親が不仲な子どもには夜尿症が多いと言う報告もあるほどである。  

 現代の閉鎖核家族においては、社会的スキル(技能)が子どもに学習されず、学校におけるいじめの格好の標的にされやすい。  

 子どもに対する親の社会病理もさまざまある。依存症を抱える親や虐待を繰り返す親(いわゆる「モンスターペアレント」)も少なくなく、加えてDVによってPTSDを発症する子どもも決して少なくない。  

 恐らくその根底には社会に蔓延するストレスがあるのであろう。ストレスを上手に発散できる方法を身に付けることや社会的スキルを社会や文化のエージェントが子どもにもたらすことが非常に現代では重要な心理学的問題だと言えよう。

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