講座 心理学概論 7 認知心理学 7 アクション・スリップ

 人間は様々な過ちを冒す存在である。「物忘れ」に始まってミスタイプにいたるまで、人間の過ちは実に多様である。ここでは「過ちの心理学」について「アクション・スリップ」という現象を中心に考えていくことにする。  

 人間の過ちは大きく分けて3つのタイプに分けることができる。1つは行動を適切に遂行できない「ミステイク」、1つは行動を忘れてしまう「ラップス」、そしてもう1つが行動を取り違える「アクション・スリップ」である。ミスタイプはミステイクであり、物忘れ、特に計画された行動を忘れてしまうのがラップスである。  

 では、「アクション・スリップ」とはどのようなタイプの過ちであろうか。それは一言で言えば「スキーマの過ち」のことである。コーエンによると、この種の過ちは4種類に大別できるという。その4つとは、Ⅰ.反復エラー、Ⅱ.目標の切り替え、Ⅲ.脱落と転換、Ⅳ.混同ないし混合、である。  

 反復エラーとは、一度家の鍵を施錠したにもかかわらず何度も何度も鍵をしたかを確かめるなど、特定のスキーマが延々と活性化した状態にあることである。  

 目標の切り替えとは、歯磨きをしに洗面所に行ったときに歯磨きを忘れて顔を洗ってしまった、と言うように類似のスキーマが本来のスキーマに取って代わってしまうような場合である。  

 脱落と転換とは、茶を入れるために水を入れたまではいいものの、沸かすのを忘れて水を入れてしまう(脱落)、紙に鉛筆で字を書こうとして紙と鉛筆を用意して下書きから始めるべきところをいきなり清書してしまう(転換)、と言ったように、スキーマが欠けるかスキーマ内の順序が変わってしまう様な場合である。  

 混同ないし混合とは、起床して冬なのに夏用の服を着てしまうと言ったように目標に対して違ったスキーマが活性化してしまうような場合である。  

 アクション・スリップの理論的検討の中で、有名なのがノーマンが提唱した「スキーマ引き金活性化理論」である。例えば我々が文章を書くとき、大テーマ、構成部、シーン、事例と言ったように、親スキーマには子スキーマがあり、子スキーマには孫スキーマがあると言った具合に全体をスキーマの階層構造にして考えることがよくある。日常行動を例に取ると、「学校に行く」と言う親スキーマには「教科書や筆記用具を用意する」とか「弁当を鞄に入れる」とかの子スキーマがあり、「教科書や筆記用具を用意する」と言う子スキーマには「今日習う授業で使用する教科書を選ぶ」とか「鉛筆を削っておく」などの孫スキーマ、「弁当を鞄に入れる」と言う子スキーマには「母親に弁当を作ってもらう」などの孫スキーマがあり、例えば「教科書と筆記用具を鞄に入れる」ことや「弁当を鞄に入れる」ことが「学校に行く」に行くことの引き金スキーマになっていることが分かるであろう。  

 会社員ならば、朝になると「会社に行く」と言うスキーマが活性化するだろうし、恋愛中の男女ならロマンチックな場面になることが「キスをする」と言うスキーマが活性化することになるであろう。  

 このような観点からノーマンはアクション・スリップを説明しようとしているのである。

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