講座 心理学概論 5 学習心理学 1 定義と概説

 我々は、意図的にも無意図的にも絶えず何かを学習しながら生きている。もし我々が何も学習しないとするならば、我々は赤ちゃんと大差ないであろう。  

 学習とは何だろうか。多くの心理学者は「経験を通しての比較的永続的な行動の変容」だと答えるだろう。このため、「今日は疲れている」などの一時的状態は学習に含まれない。我々のほとんどの行動は学習によって成立したものである。  

 多くの学習実験が人間を被験体としてではなくハトやラットを使って行われてきた。それはパブロフ以来何ら変わっていないが、より低次の動物の示す学習は、人間の学習の基礎過程を表していると学習研究者らが信じて止まないためである。事実、実験神経症や学習性無力感などは人間でも見られる現象である。  

 I.P.パブロフが学習心理学の基礎である条件反射学説を発表したのは、1902年のことであった。次いでパブロフの論文の英訳を読んだJ.B.ワトソンが1908年にこの学説を基に自らを「行動主義者」だとする講演をジョン・ホプキンズ大学で行い、エール大学に移った1912年の講演が「サイコロジカル・レビュー(Psychological Review)」誌に掲載されるに至って、彼の名は一躍有名になった。  

 1930年前後にスキナーはソーンダイクの「問題箱」に似た「スキナー箱」を考案し、パブロフやワトソンが問題にしたのとは機構の異なる条件付け、すなわち「オペラント学習」の研究を始めた。  

 1971年にはバンデューラが「観察学習」にかんする著書を発表し、それまでの学習心理学の常識を打ち破った。  

 それまでにも、パブロフやワトソン、スキナーの提唱した理論は、次々とそのままでは維持できないことが明らかにされ、学習の大前提だと考えられていた近接性の原理や頻回性の原理が学習にとって必須ではないことなどが明らかにされ、それまで学習は意外性の程度に左右されると言うレスコーラ=ワグナーモデルの着想も誤りであることが明らかにされ、学習という現象が当初想定されていたよりは遙かに複雑なことが分かってきた。  

 現在の学習心理学は、すべての学習現象を説明できる理論を求めて、日々研究が行われている。より普遍的な学習の理論を目指して、緻密な実験を繰り返し、説明理論の追求に余念がない。応用的観点からは「どうやったら学習成績は上がるの?」というような素朴な質問に正確に答えることが可能になりつつある。

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