講座 心理学概論 4 感覚心理学 7 信号検出の理論

 我々は、何らかの色覚異常を持っていない限り、交通信号機の色を正しく認識し、交差点での安全を確保している。これは、我々が色の弁別を問題なく行っているからである。  

 しかし、現代という時代は、弁別閾、わけても絶対閾の問題を我々に突きつける。例えば、あなたが医者で、レントゲン写真から腫瘍の存在を判断しなくてはならない立場にあるとしよう。レントゲン写真はぼやけていて、そこに写っているものが腫瘍か否かを判断することは難しい。  

 仮に本当に腫瘍があって、手術の必要がある人のレントゲン写真をあなたが判断する場合を想定しよう。レントゲン写真はぼやけているが、なんとなく影のようなものが写っている。もしこれをぼやけているせいで「何もない」と判断したならば、手術で助かる見込みのある人を見殺しにすることになるだろう。あなたの医者としての評判は落ち、患者はあなたの診察を信じないようになるだろう。しかし、あなたは、「レントゲン写真がぼやけていたもので、仕方がなかった」と釈明するだろう。しかし、本来「腫瘍がある」と判断、すなわち「ヒット」すべき事例で、「腫瘍はない」と判断、すなわち「ミス」したことは、あなたが勤務医だったとしたら昇格を見送られたとしても、弁明の余地はない。このような判断の結果の利害を「ペイオフ」と言う。  

 もし仮に逆に本当は腫瘍がなくて、手術の必要のない人のレントゲン写真が上述のようであって、あなたが同様に「腫瘍がある」と判断、すなわち「フォールス・アラーム」したとしよう。手術の必要のない人を手術台に載せることになるだろう。最悪のペイオフは、必要のない手術を受けて死亡することである。あなたがその写真を正しく「腫瘍がない」と判断、すなわち「コレクト・レジェクション」できたならば、何の問題も生じないだろう。  

 様々な事態で、ペイオフは変わるだろう。避難すべきなのに津波警報を出さなかった場合と、避難しなくても良いのに津波警報を出した場合、前者のペイオフの方がはるかに大きいと思われる。  

 では、ヒット、ミス、フォールス・アラーム、コレクト・レジェクションは何が原因で分かれるのだろうか。一般的な説明は、刺激すなわち信号と雑刺激すなわちノイズの比がそれらを決定づけるだろうというものである。他にも要因はある。社会的条件や動機づけ、ペイオフに対する考え方などである。権威者の監視のもとでと、そうでない場合は判断が変化する。熱心に任務を遂行しようとしているのとそうでない場合でも同様に判断は変化する。無難をどれほど重要と考えるか否かによっても判断は変化する。  

 この理論は、気になる異性のそぶりの判断にも適用可能である。まず両思いか片思いかが決まっていて、愛の告白をすべきか否かという問題で、ヒット、ミス、フォールス・アラーム、コレクト・レジェクションは何かを考えると良い。もちろんペイオフも。

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