講座 心理学概論 3 心理学史 3 心理哲学の発祥~ギリシア(後編)~

 ソクラテスは「真・善・美」といった倫理的側面で活躍した哲学者であるが、その弟子プラトンはソクラテスが語らなかった多くのことについて言及した。まずパルメニデスと似た心身間の関係を彼は仮定した。堕落した肉体に魂は閉じこめられているのだ、と彼は言う。そして感覚は当てにならないものだと考え、真の知識はイデアであると言った。イデア(形相)は魂が肉体に宿る以前に持っているものであり、その代表格に数学を挙げた。心像は経験を通して得られるが、それがイデアを解発するという。また彼は魂を3つの部分に分けた。1つは不死の理性的魂であって頭の中に位置している。のこり2つの魂、すなわち名誉と栄光を求める魂、性欲や食欲にかんする魂はそれぞれ胸と腹に位置している。快を求め苦痛を避けるのは肉体の仕業であって理性的な魂を卑しくし善を考えるのを妨害する。教育の目的は、理性的な魂が肉体やその他非理性的な部分を制御することができるように手を貸すことだと考えた。  

 プラトンの弟子アリストテレスは、師プラトンの考え方とは正反対であった。アリストテレスは目に見える世界の実在を信じ、感性的知覚の価値を信じていた。アリストテレスは形相の実在の概念を斥け、普遍は自然の中にあると信じていた。自然には形相因、目的因、動力因、質料因という原因があり、魂は人間の形相であり、人間が人間らしく振る舞うのは、人間の魂を持っているからだと考えた。魂は肉体を動かすという言う意味で動力因であり、肉体は魂に奉仕するものであるから目的因でもあり、その本質を定義するものという意味で形相因でもある。そして、肉体は魂の質料因である。そして魂には、栄養、運動、推理というような力があると信じていた。アリストテレスは最初に知覚心理学の原型を作ったひとでもある。5感で知覚されるもののうち運動、数、形、大きさなどの諸性質は複数の感覚(モダリティ=対応刺激特性)によって捉えうるものであるためその統合態は「共通感覚」と呼ばれ、記憶される。記憶されたものは常に心像の形を取るから、それが想起されるさいには必ず想像がともなうと考えていた。  

 アリストテレスはギリシアの哲学の最後の巨人であった。その後の哲学はエピキュロスの幸福哲学、アウグスティヌスのキリスト教哲学へと移ろって行く。  

 ギリシアまでの哲学を見てみると、現代の科学のあらゆるパラダイムをそこに見出すであろう。形相を感覚するときそれは形相の不完全な写しだと言えば、現代心理学の知覚研究を相対化することもできる。物質を要素に分けると言う考えは、心にも妥当すると言えば、構成主義心理学や感覚心理学の源をそこに見出すことも可能である。

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