講座 心理学概論 3 心理学史 18 臨床心理学の誕生と発展

 1896年、ヴントのもとで学位を取得したウィットマーは、アメリカ心理学会ではじめて「臨床心理学」という用語を使用した。この時を以て臨床心理学が誕生したとみなされている。彼は学校生活や学習に問題を抱えたひとびとを心理学の知見を駆使して援助した最初のひとでもある。その後、19世紀初頭のビアーズやヒーリーなどの活躍により、精神障害や非行の問題への心理学的アプローチが発展し、児童指導クリニックが各地に作られ、児童指導運動の流れを作ってゆく。  

 それから時を少しおいた1920年代あたりから、行動主義に基づく動物恐怖症や夜尿症の治療の展開が見られ、その後ウォルピが系統的脱感作法という行動療法の原型を作り、ラザラスの多面的行動療法、スキナーとその弟子たちによる行動理論の臨床的応用などがぞくぞくと登場した。  

 すでに述べたので省くがそれ以前はこの分野の代表的治療法は精神分析だけだった。そこに主に教育・福祉問題に焦点を当てた「指示的カウンセリング」がウィリアムソンらによって提起されるのだが、それは行動主義の怒濤に凌駕されていた。しかし、「カウンセリング」と言う概念を提起した功績は認めなければならない。それはやがて、1940年代のロジャーズによる「非指示的カウンセリング」に取って代わる。彼は「教えるから変わる」のではなくて、「教えないから変わる」という人間性理論によって代表される「臨床心理学の第3潮流(マズロー)」と位置づけられている。彼の弟子に、「既存の心理学理論では、パーソナリティを変化に抵抗するものと位置づけているがゆえに、パーソナリティの変化をうまく扱えないでいる」として、それに変わる「体験過程論」を唱えたジェンドリンがいる。  

 教条主義的な行動療法に冷や水を浴びせたのは、バンデューラである。彼は子どもを対象とする実験を行い、ただ行動を観察するだけで学習は生じうることを示した「モデリング」という概念を提起し、学習には必ず報酬が必要だとする既存の行動理論に異を唱え、モデリングの臨床応用にも積極的だった。  

 そのような点も踏まえて、現代ではベックの唱えた「認知療法」と既存の行動療法が結びついた「認知行動療法」が特に盛んになってきている。  

 以上で「心理学史」は終わりである。いよいよこれから心理学の扱う問題と論争を見てゆくことになる。

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