講座 心理学概論 3 心理学史 16 発達心理学の誕生

 19世紀半ばのドイツでベーアは人間の発達を「分化と体制化」の過程であるとする発達の一般原理を提唱した。その後ダーウィニストのヘッケルが「個体発生は系統発生を繰り返す」という反復発生説を唱える。後にアメリカのホールが発達原理として仮定したのも、この説である。  

 そういうドイツの雰囲気の中で、1883年にプライヤーが自分の子どもを出生直後から3歳になるまでの間を観察して「児童の精神」という本にまとめた。組織的観察法を用いた彼の手法は、彼の著作を以て児童心理学の誕生とされるだけの信頼性があると認められた。  

 これらの温床は19世紀に欧米における「身分制から職業選択の自由へ」という流れに求められる。標準的な教育としての中等教育の普及は、青年期という新たな発達段階を生み出し、1901年にボストンで始まった職業指導運動に代表される社会運動が青年期という時期に焦点を合わせて勃興し、1904年にはホールが反復発生説を基礎とした「青年期」という著作を書いた。これは青年心理学の始まりに位置すると考えられている。  

 1926年にウェルナーが「発達心理学入門」を著し、大人と子ども、文明人と未開人の比較から発達の一般原理を提出した。それは、「未分化-分化-統合」という定向発達を唱えるものであった。

 ロシアにも発達心理学が20世紀初頭に現れた。マルクスの弁証法的唯物論を発達に当てはめて考えたのはヴィゴツキーであった。彼は児童心理学を発達心理学に取って代わらせる役目を担ったピアジェとは対照的に、こどもの外言はやがて内言へと移行してゆくものと見、内言はやがて不要になるというピアジェと真っ向から対立する形となった。現在ではヴィゴツキーの立場を取る学者が多い。  

 1970年代になると、ライフスパン発達心理学(生涯発達心理学)が産まれ、減退や水準の低下といったこれまで否定的に捉えられていた中高年期以降の「老化」は、生涯発達心理学の重要なテーマとして「エイジング」という発想への転換をした。ここに、「ゆりかごから墓場まで」の心理学としての生涯発達心理学が誕生し、現在まで夥しい数の著作が刊行されるに至っている。その前提して1960年代のベトナム反戦運動とか学生運動が盛んになり、それが黒人の公民権運動や女性や高齢者の権利の主張にまで影響を与え、アメリカの中高年の危機を顕在化させたと言う背景があり、生涯発達心理学は時代の要請だったと言える。 

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