講座 心理学概論 3 心理学史 11 現代心理学への伏線2

 ここでは、①シャルコーの心理療法の原理となった催眠療法への伏線としてのメスメリズム、②生理学的心理学の端緒となったガルの心理大脳生理学説、③超心理学の基となった心霊研究協会、の3つの消長について説明する。  

 ①について。18世紀に活躍したメスメルは、生命のあるものにはある種の目に見えない流体が働いており、この流れが阻害されると精神疾患がもたらされると考えた。この流れを正常にするには金属磁気に類比される動物磁気を手や魔法の杖で叩くなどして整えることで治療効果が得られると考えた。この考えは学会から冷ややかな目で見られ、彼の「動物磁気説」は否定的に捉えられた。そのため彼は晩年の15年ほどの間、その研究から完全に手を引いた。しかし世俗的には科学主義的合理主義を受け入れきれない多くの人々の間で人気を博した。学術的な進歩の観点からは、ブレードが後にメスメルの引き起こした現象は「動物磁気」などによるものではなく、それは「催眠術」だと指摘したことが、シャルコーのヒステリーの治療の中に取り込まれることとなっていく。  

 ②について。今では一般に「骨相学」と呼ばれているが、それはシュプルツハイムによる命名で、その呼称をガル自身は受け入れなかった。ただし一般に紹介されているように、ガルはプラトンのように心の座は脳にあり、脳の部位ごとに受け持つ能力は違っており、優れた能力の背後には、それを担う脳の部位に膨らみが見られ、そのため人の頭の形が異なっているのだと考えたのは事実である。その後この説をめぐって膨大な研究がなされたが、彼の仮説の中で正しかったのは「脳が心の座である」ことだけであることが次々と実証されていった。しかしこの仮説が心理学にとって果たした役割は大きく、大脳生理学の先駆者として彼は位置づけられている。  

 ③について。死への恐怖を科学は慰めてくれないことに大きな不満を持っていたマイヤーズは師シジウィクの激励を受けて心霊研究協会を設立した。この協会の会長を務めたことのある心理学者にウィリアム・ジェームズがいる。その後ジェームズは一般心理学へと向かい、マイヤーズは霊的現象の記録を記した本を書き、世俗では人気を二分した。  

 以上で欧米における科学的心理学への伏線を記した。次節からはいよいよ本格的な科学としての心理学の歴史に触れることとする。ただし、思想史的には大陸の合理論とイギリス経験論の間の右往左往・合算・折衷をそこにみることになるだろうから、意識的にまとめて簡略に触れることとしたい。「心理学検定」を受検しようとする人々のためには今節までの知識は必要ない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です