講座 心理学概論 11 人格心理学 1 人格の安定性

 「人格心理学」と言う言葉を聞いて「おや」と思うひともいるかと思う。要するに「パーソナリティの心理学」と言う意味であり、筆者が学生の頃はこの名称で主に研究されていた。この節ではいわゆる「知能」も含めた広い意味での「人格」を問題にする。  

 さて、「人格」と言うと「人格者」のような言葉に現れているように、「人間の出来」を表すと受け取る読者も多いことであろう。  

 しかし、「人格心理学」で言う「人格」とは「性格」の概念と大して異同はない。ニュアンスがわずかに違うが、それは人間の構造的側面を想定しているか否かの問題である。  

 しかし、近年この「人格」と言うものが果たして安定したものなのかそうでないのかについてミシェルと言う心理学者が「ひとー状況論争」と言う問題を提起し、「果たして人格と言うものは実在するのか」と言ったような極端な話になっていることもある。 

 ミシェルがこの論争で「ひとは状況の影響が強い」と主張したのには、彼女が研究した結果、「人格」と言う概念でどれだけの人間の行動が予測できるかについて、人格と行動の間には0.30程度の相関しか見出されず、従って「人格」と言うものは予測的妥当性を持たず、構成概念としても問題があると考えているようである。  

 彼女の「人格」の予測因は、いわゆる「人格検査」であった。  

 我々の常識からすると、ひとの性格と言うものは確かに実在するように思われる。なのになぜ彼女が常識とは正反対の考え方を主張しているのかと言えば、彼女が根拠にしている「人格検査」と行動の予測に弱い関係しか見いだされなかったからである。  

 しかし、筆者の見解では、「人格検査」を同一人物に繰り返し行っても同じような結果が得られるとか、少なくとも「人格の継時的安定性」に疑いの余地はなく、その目的を「行動の予測」に強引に持って行くのは少し論理的に無理があるように思う。と言うのは、人格検査で分かるのはそのひとの内面性であって外面性である行動であるわけではないし、そこで測定されているものは行動そのものと言うよりも行動の中に見出されるように思われるからである。それと、「人格」と言うものを我々は日常ではTPOも考えながら「あのひとらしいよね」とかの話になることは多い。それは延いていえば、「人間の人格は人格検査で捉えきれるものではない」ことを意味しており、極めてデリケートな問題の部分も多いように思う。また、その多くは質問紙と言う問いに答える形式が採られており、それで人格が的確に把握できるのかと言う問題もある。  

 「人格」と言うことは「個性」の問題であるとも考えられる。ひとに「個性」を見出すのは「人間」であって「人格検査」ではない。人間には「個性」の強いひともいれば、あまり目立たないひともいる。  

 豊嶋が考えた「生活空間構造」と言う考え方をする場面によって対応する人格(心のシフト)が違ってくると言う考えが存在するが、筆者はどうしたとしてもそのような人間理解が正しいとは思わない。なお、この考え方はミシェルの問題提起をあたかも予想して考案されたもののように思われる。  

 「人格心理学」と言う分野が発展したその礎には、オールポートと言う心理学者の存在がある。彼はハーバード大学でこのような分野のことを研究していたが、何せパイオニアであるためたびたび孤立感に襲われていたようである。そのようなとき、彼の指導教官であったラングフェルドに慰められ、勇気づけられて彼の才能は開花した。  

 この分野の発展が進んだ一番大きなファクターは、精神医学でひとのこころの異常を検出するツールの必要性が認識され始めたところによるところも大きい。要するに、「心理検査」の必要性が認識されるようになったと言うことである。その意味では、理論よりもスクリーニングの必要性が人格心理学発展の原動力にもなっていると言える。この章で含めて考える「知能」にかんしてもそれが言える。  

 「人格」については様々な定義がある。しかし、それらを渉猟して見てみると「持続的かつ一貫的な人間の個性」と言う考え方に集約できるように思われる。  

 この節の後の方で詳しく触れるが、「人格」の理論には大きな2つの考え方が存在する。1つは「類型論(人間はいくつかのタイプに分類できると言う考え方)」であり、1つは「特性論(さまざまな人間の心理的側面についてそれぞれその強弱から考えて行こうとする考え方)」である。  

 しかし、実際のところはことほど左様に単純に割り切れるものではない。たとえば「人格とはさまざまな構成概念の統合されたフィギュアである」と考えたケリーとか、ミードのように「役割」から人格を考える心理学者まで様々な人格心理学の理論家が存在し、「類型論」とか「特性論」とかに収まり切れない人格理論も少なくない。

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