私たちは、おそらく視覚障害を持っていない限り、外界からの情報を視覚によっている。“イケメン”などという概念は、その良い象徴である。私たちが視覚依存の生活を送っていないならば、世間にはもっとバリエーションに富んだカップルが往来していることであろう。
「モダリティ」と言う概念を既に説明したが、視覚のモダリティは「電磁波」である。刺激の側から言えば「電磁波」には強度と振幅(周波数)と言う特性があるが、ある一定の振幅の範囲の「電磁波」しか我々は見ることができない。それは380nmから780nmの「電磁波」であり、これを「光」と言う。それより短いものは「紫外線」「X線」「ガンマ波」であり、長いものは「赤外線」「電波」である。
我々の目に入ってきた光は、角膜-釭彩-水晶体-網膜という順序で通り抜ける。角膜は目を覆う透明な膜で、釭彩は目に入る光の量を調節し瞳孔の大きさを決定する。水晶体は光を屈折し、明確な対象像を網膜に投射する。網膜には光受容細胞である錐体と桿体があり、光を受容すると受容器物質の化学構造を変化させるようになっている。錐体は網膜中心禍に最も多く自生し、赤-緑、黄-青、白-黒の色対立型細胞から成る。錐体は一本につき一個の視細胞が連絡しており、一定の強度以下の光を感じることはできない。桿体は網膜周辺部に多く見られ、感光色素ロドプシンを持ち一本に多数の視細胞が連絡している。このため、暗い場所においては、色の弁別が困難となる。強い光を見たあとに一定時間ものが見えなくなるのは、化学構造の変わってしまった光感知物質を再生成するのにそれだけの時間を必要とするためである。
暗いところから明るいところへ、あるいは明るいところから暗いところへ一瞬で視界が変化すると、後の方の刺激がはっきり視認できるようになるまで時間を要する。前者を「明順応」、後者を「暗順応」と言う。
視細胞は横方向の隣り合う視細胞の活動を抑制する。これを「側抑制」と呼ぶ。この機構が働くためにものとものとの境目がはっきり見えるようになっていて、錯視の一部をこれで説明する立場もある。
最後にティップスとして釭彩の調節にかんする興味深い知見を紹介しておく。
ヘス(Hess,1965)は瞳孔の大きさを決定づける要因には、光の物理的強度以外に、人間の抱く興味・関心がかかわっていることを実証した。すなわち興味・関心があるものほど瞳孔を大きくする、というのである。男女関係に苦労している諸氏には大いに参考にしてもらいたい。「目は口ほどにものを言う」のである。