講座 心理学概論 序

 心理学は人間の心的特性の研究からスタートした。心理学というと多くの人は「ひとの心を読む術」という意味をそこに与えがちではあるが、今の心理学は「ひとの心を理解する」ところまでは行っているが、残念ながら「ひとの心を読む」ところまでは発展していない。およその行動傾向を知ることまでのところで研究は自己満足している程度なのである。神経心理学、パーソナリティー心理学においてこれらの研究がなされてはいるものの、「ひとの心を読む」と言う課題には、様々な難題がつきまとう。  

 そもそも心理学(Psychology)と言う名を初めて使ったひとはマルコ・マルニで16世紀前半に世界で初めて「人間性的理性心理学」と言うタイトルの書物を公刊した。1世紀ほどおいてルドルフ・ゴクレニウスが1590年に「人間学的心理学」という題の著書を出版した。次いで「(理性的・経験的)心理学」と言う名のタイトルの本を書き、「心理学」という名をヨーロッパに普及させたのがヴォルフである。そしてかの有名なダーウィンの「種の起源(1859)」に感銘を受けた彼の友人ロマーニズが進化論をひとの心の研究の基盤としての比較心理学を唱えた。その頃ウェーバーやフェヒナーは人間の感覚の限界や特性を知る目的で物理量の変化と感覚量の変化の関係を研究し、「精神物理学」と言う学問領域を立ち上げた。  

 そんな中、ヴントはライプチヒ大学に心理学研究室を設けた(1879)のが近代心理学の社会的認知の対象として認められるにいたって、心理学を専門の職業とするひとたちが現れ始めた。ほとんどの初期の心理学者はヴントの下で学位を取り、ナチスドイツの台頭から逃れて数多くの心理学者がアメリカに亡命したこともあって特にアメリカで心理学が発展した。初期の心理学者の関心は、専ら感覚と知覚にかんするものであり、ティチナーの構成主義心理学に対抗する機能主義心理学が盛んとなり、心理学はオーストリアの精神分析学の創始者フロイトの創始した精神分析学、機能主義の総本山シカゴ大学学派から登場した行動主義心理学の提唱者ワトソン率いる行動主義心理学、それらへのアンチテーゼとしてドイツ(グラーツ~)ベルリン学派の唱えたゲシュタルト心理学の3大潮流に分かれた。  

 ざっと心理学の生い立ちを述べたが、この中で「ひとの心を読む」のにもっとも強い影響力を持ったのが精神分析学派である。フロイトは夢や自由連想などを通じて、人間の無意識を研究した。彼の漸成的性的発達論は、禁欲を美徳としたヴィクトリア王朝へのアンチテーゼとして登場したものであり、5段階の心理性的発達論を展開した。  

 冒頭で述べたように、心理学は人間の心的特性の研究から始まっている、というのは、ウェーバーやフェヒナーが感覚量と物理量の関係を研究しそこから要素還元的な研究が主流となり、それへのアンチテーゼとして刺激の全体性を強調するゲシュタルト心理学が現れた、と言う事実にそれが見て取れる、という意味である。  

 さて、ここまでざっと心理学の流れを書いてきたが、それが現在の心理学においてどう展開されていったのかを我々は各テーマに沿って見て行くこととしたい。

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