情熱的な恋をしている異性と抱き合うと、身も心も温まるだろう。我々の体表は、およそ1.8㎡の面積を持ち、32℃以上の対象と触れ合うと「温もり」を感じる。ヒトの体温は36℃あるから、恋人の温もりを感じることができる。それ以下だと、逆に「冷たさ」を感じる。32℃ちょうどだと温もりも冷たさも感じないため、この温度は「生理的零度」と呼ばれる。
温もりを感じる受容器も冷たさを感じる受容器も、皮膚の自由神経終末にあるが、冷たさを感じる受容器の方が、温もりを感じる受容器よりも5倍ほど多い。このため、熱い刺激に触れても冷たさを感じることがある。これを「矛盾冷覚」と言う。
皮膚は圧も感じるが、軽く押され続けると順応を生じる。変化に敏感である。このため着ている服やかけている眼鏡を感じるのは、それらを着脱するときに限られる。メルケル触覚盤、マイスナー小体、パチニ小体の順に触2点閾(どこまで近傍の刺激を弁別できるかの値)は小さくて済み、メルケル触覚盤は舌先と指先に多く分布しているため、19世紀初頭にパリ盲学校の生徒で後に教師となったブライユによって最小弁別閾の文字、すなわち点字が考案され、それ以来長くに渡って視覚障害者のメディアとして定着しているが、近年、老化に伴って目が見えなくなる人が増え、識字はできるが見えない人たちのために、浮き出し文字の必要性も再認識され始めている。
皮膚および体躯は痛みの感覚も生ずる。痛みには一般に順応という現象は見られない。これは命にかかわる刺激であるためと考えられている。
いわゆる「三半規管」と言うものがその中にある「有毛細胞」を介して平衡感覚を司っている。視覚や筋運動感覚と連携していて、スケートで急速にスピンすると眼球の往復運動が生じる。これを「前庭性眼球振盪」と言う。これは、リンパ液の流動による。
前述の筋運動感覚は関節や筋肉の中の自由神経終末が受容器であり、運動を感知するとともに脳に絶えずフィードバックして、姿勢の制御にかかわっている。
視覚・平衡感覚・筋運動感覚は互いに連携して働き、運動の制御をする。それぞれが単一で働くことは希である。
以上、感覚のそれぞれについて概説した。次節では基本的にも応用的にも重要であると思われる感覚の「信号検出」について触れておきたい。