子どもが小学校に通い始めるあたりから子どもは自分と同年代の仲間の心や立場を理解する能力が急激に発達することによって、彼らの準拠集団(自分の心のよりどころとなる集団)は家庭から仲間にシフトしていく。前節でも述べたが、子どもたちには自生的な規範ができ、「心の理論」が洗練されていく中で仲間中心の社会化を遂げていく。このような仲間中心の児童期には、家族との会話が仲間関係の話が話題になることが多くなり、時として家族の価値観より仲間の価値観を大切にするために、子どもたちが反抗的に見える時期があり、これを「ギャング・エイジ」と言う。
学習の面においては、まだ具体的操作期と言うこともあり、様々な学習における制約を子どもたちは受けてはいるが、自分ひとりでできることと教師などの大人の適切な介入によってできることの範囲が異なり、概して大人の介入した時の学習内容の方が高度なことが一般的である。この、「自分ひとりで学べること」の「大人の手を借りて学べること」への導きが学校生活では重要な問題だと考えられ、大人の介入によって自分ひとりの時よりもより高度な学習ができるその高度な学習範囲のことをロシアの心理学者ヴィゴツキーは「発達の最近接領域」と呼んだ。
語彙の学習にかんして、子どもの認識上用いる4つの制約が指摘されている。 ひとつは「事物全体的制約」であり、ひとつは「相互排他的制約」であり、ひとつは「分類学的制約」であり、最後に「形状的制約」である。「事物全体的制約」と言うのは何らかの事物を見て語彙が与えられたならばそれはその事物の部分ではなく全体を意味すると学習することである。「相互排他的制約」と言うのは、ひとつの対象にはひとつの意味しかないと言う信念である。「分類学的制約」と「形状的制約」は同レベルの語彙学習上の制約で、子どもがカテゴリー認識によって事物を認識すると言う考え方のことを「分類学的制約」と呼び、いやいやそうではなく子どもは対象の形の類似性によって事物を認識するのだと言う考え方のことを「形状的制約」と言う。
人権上の配慮から最近ではあまり用いられなくはなっているが、子ども同士の関係性を把握する有力な方法として、モレノが考案した「ソシオメトリックテスト」と言う、子どもに「自分が好きな子」と「嫌いな子」を何人か挙げさせ、子どもの関係性をダイヤグラムで表すものがある。多くの子に好かれる子のことを「人気児」、嫌われる子を「拒否児」、誰からも好かれも嫌われもしていない子を「孤立児」と呼び、一般に人気児はクラスの中心的存在でその言動の影響力が強く、拒否児は後々問題行動を起こすことが多いと言う知見がある。
児童期の子どもにとって、仲間から認められることはどの児童にとっても最大の関心事であり、したがって子どもの行動にもそのことが大きく影響する。
しかし一方で、現代の成績偏重の教育にあって、子どもたちのかかわりが成績と言うファクターで大きく左右され、「いじめ問題」の温床になっていると言う指摘もある。子どもの仲間からの承認欲求は非常に強いので、子ども同士のかかわりの中に成績を混入させない教育的な工夫が必要だと言えよう。と同時に、家族関係がうまくいっていない子どももいじめのターゲットになりやすい。これら2つのファクターが揃っているような子どもには特別な配慮が必要である。
最近の子どもは、筆者が育った時代とは異なり自然の中で子ども関係が育まれていくと言うよりスマホゲームなどの人為的環境でしか子ども同士の関係が育まれない心理的に貧しい状況にある。このような子どもを取り巻く環境が子どもの人間性に深刻な影響をもたらしていないかは常に注意しておく必要がありそうである。