動物にも言語は学習できるのだろうか。
この素朴な疑問に答えようと、特にアメリカで20世紀初頭から動物に言語を教える研究が散見されるようになってきた。
はじめは、動物に言語を教える研究は、ヒトと近縁のゴリラ、オランウータン、チンパンジー、ピグミーチンパンジーに限られていた。まずはそれらの研究を概観し、次いでそれ以外の動物の言語学習について概観する。
類人猿を用いた初期の研究としては、ヘイズ夫妻のチンパンジー、ヴィキの研究が挙げられる。英語の学習がヴィキには求められた。その結果、ヴィキは6年間費やしてわずか4語しか学習できなかった。チンパンジーには、言語獲得は不可能なのであろうか。
19世紀も後半になると、ガードナー夫妻がワシューというチンパンジーに音声ではなく、アメリカ手話環境で言語を教えることを実践した結果、3年半のうちに130語の動詞、名詞、形容詞を獲得し、大成功をおさめた。チンパンジー同士の会話や世代間伝播も確認され、ゴリラやオランウータンにも同様に言語獲得できることが確認された。手話ならヘイズ夫妻のヴィキのように、発声する必要がない。人間のように発声器官が発達していない類人猿では、別の方法によって言語を習得させなければ、彼らの言語能力が調べられないことが明らかになったのである。
同時代にランボーは、レクシグラム(要素図形を組み合わせた複合図形)を使って、ラナと言う名のチンパンジーに要求文を発しさせることに成功した。
プレマック夫妻は、サラというチンパンジーにプラスチック彩片を用いて否定詞、前置詞、条件文、重文が理解できることを明らかにした。
さらに最近では、サヴェージー-ランボーがピグミーチンバンジーのカンジが、身振りとレクシグラムを交えて、一定の語順の自発性の高い発話をすることを報告している。
これまでの研究で、類人猿は数百の単語を覚えられることも確認されている。人間にするとおよそ2歳半の言語能力に匹敵するという。
ここまでは類人猿の言語能力を見てきたが、次にそれ以外の動物の言語能力にも触れておこう。
語順によって意味が変わる手旗信号のようなものに従うことを、ハンドウイルカではハーマンが、カリフォルニアアシカではシュスターマンが報告している。
オウムの一種のヨウムが、英語の質問に対して色、材質、数などを正確に答えられることをペパーバーグは報告している。
このように、ヒト以外の動物にも言語獲得は可能であって、動物がそれぞれの種内で何らかのコミュニケーションを取り合っているらしいことも分かってきた。動物の言語学習は、そのうちのごく一形態に過ぎないのかも知れない。