講座 心理学概論 2 心理学研究法 9 ノンパラメトリック検定

 これまでは背後(母集団)に2項分布や正規分布を仮定できる場合の検定法を紹介した。これらはパラメトリック検定と呼ばれる。しかし心理学のデータにはそれが仮定できないものがある。それらの検定をノンパラメトリック検定と言う。  

 すでに紹介したχ2検定は、母集団に特定の仮定を置いているから、パラメトリック検定である。これとは違ってノンパラメトリック検定としては符号検定、順位和検定(ズレの検定)、順位相関係数などがある。以下それぞれぞれについて述べる。  

 符号和検定では、各変数から中央値の期待値を引き、それらの符号を書き並べる。たとえば恋人への好意度が10点満点で、過去の充分大きなサンプルサイズの既知の中央値が6.5だったとする。 新しいデータ15人分が、   

7 8 8 7 9 6 7 8 7 6 7 3 8 9 7 だったとすると、符号は   

+ + + + + - + + + - + - + + + となる。2項分布の公式

 n         n!  

(  )  = ―――――――― ―――

 x       x!(n-x)!

 からn=15、p=0.5として     

 p(0+1+2+3) = .017

 よって、5%水準で新しいデータの中央値の方が高い、と言える。  

 次に順位和検定であるが、ある心理テストの「神経質さ」の得点が50点満点で、心理療法を受けた群(n=10;Tと表記)と、受けていない群(n=10)で以下の成績を示したとする。   

 心理療法あり(T) 25 21 30 31 28 25 30 29 25 20   

 心理療法なし(R) 37 29 25 36 42 38 28 35 40 36

 これを値の小さいものから並べる。なお「心理療法あり群」には(T)を添えてある。     

20(T) 21(T) 25 25(T) 25(T) 25(T) 28 28(T) 29 29(T) 30(T) 30(T) 31(T) 35 36 36 37 38 40 42   

 これらの値を順位に置き換える。   

1(T) 2(T) 3(T) 3(T) 3(T) 3 7(T) 7 9(T) 9 11(T) 11(T) 13(T) 14 15 15 17 18 19 20

 検定統計量R=((T)の値の総和)=1+2+3+3+3+7+9+11+11+13       =63

 Rの0.026の臨界値は79以下、よって「心理療法あり群」は5%水準で有意に「神経質さ」の得点が低い。順位和検定についてはこれで述べた。  

 さらに、順位相関係数では次のような問題を扱う。 数学と理科のテストで以下のような順位がついたとする。

  数学  5  8  6  1  9  4  7  2  10  3

 理科  4  9  7  1 10  5  8  3   6  2

 この場合の順位相関係数は次式で与えられる。          

     (Xi-Yi)の二乗の総和

r=1-(――――――――――――――― × 6)

        n(n二乗-1)

 この場合(Xi-Yi)の二乗の総和は24なので   

 r=1-((24×6)/800)    =1-0.18    =0.82 と高い相関があることが分かる。  

 ノンパラメトリック検定の代表例3つについて述べた。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 8 因子分析とSD法

 これまで見てきた心理学的統計検定の本質を要約すると、心理統計とは「変数の共変性の確認」だと言うことができる。  他の基礎的な心理統計の方法についてこの後は概説してゆくこととする。  

 「因子分析」とは、比較的少数の「因子」を数理的に共通のモーメント(重心の推定値)を抽出して、相関を分析する手法のことを言う。因子間行列から分散を最大にし、現象をよく説明する因子を抽出するのである。そのために各変数に最適な重み付けを与える。この重み付け係数のことを「因子負荷量」という。イメージして欲しいのが、分布が30点から100点までのテストと、分布が90点から100点までのテストを何も考えず単純に加算して「学力テスト」と銘をうつ誤りである。近年までは因子間に相関を認めない「バリマックス回転」という手法を用いて「直交解」を求めるのが主流であったが、最近ではある程度の因子間相関を認める「プロマックス回転」を用いて「斜交解」を求めるのが主流になっている。これらは共分散行列から計算される。心理学では質問紙検査を作成したり、イメージを分析したりすることに用いられることが多い。因子数であるが、1以上の固有値をスクリー基準によって決定する。因子分析には「探索的因子分析」と「確認的因子分析」がある。「探索的因子分析」では分析のはじめに最小二乗法や最尤法で初期解を求め解釈をし、2因子以上の解は各観測変数がができるだけ小数の因子から影響を受けている単純構造を探すため回転をする。「確認的因子分析」では、自由母数・制約母数・固定母数を指定し、因子間行列を求めることができるので、特定の理論的背景があるときには確認的因子行列をもちいる。これらは統計ソフトSASやSPSSなどで容易に求められる。  

 心理学で意味やイメージを研究する方法としてはオズグッドによるセマンティック・ディファレンシャル(=SD;意味微分)法が有名である。たとえば「怒り」という概念に、一対の反対の意味を持つ形容詞、たとえば「優しい-厳しい」、「良い-悪い」、「愛がある-愛がない」など10~20対の形容詞を7段階尺度で評定してもらい、因子分析を施して各尺度上の点を結びつけることでイメージ空間にプロフィールを作れるようにしたりする研究などがある。基本的に「評価」・「活動性」・「力量」からなる3次元意味空間に意味を定位することができる。が、研究によってはかなり違う次元を抽出することもある。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 7 3つ以上の変数の差の検定・・・分散分析(2要因被検者内計画

 先の節でも述べたが、分散分析を流れる基本的な数理的根拠は「分散の大きい平均値ほど平均値としての意味は弱い」と言うことである。それを念頭にこの節も読んでいただきたい。  

 被検者それぞれがすべての条件について反応を求められるような調査・実験計画のことを「被検者内計画」と呼ぶ。このとき設定される条件のことを「要因」という。ここでは要因1が2水準、要因2が3水準であるような「2×3被検者内計画」の分散分析について述べる。  

 

 例:5人の被検者に酒の銘柄「安東水軍」「剣菱」2銘柄について「冷や」「常温」「熱燗」3条件で美味しい順に10点から1点までの点数で評価してもらった。このデータについて5%水準で分散分析を行いなさい。           

条件      「安東水軍」

被験者  加藤  井上  芝崎  田中  石田

「冷や」  5   6   4   6   7

「常温」  6   6   6   7   7

「熱燗」  9   7   8   8   9

 

条件       「剣菱」

被験者  加藤  井上  芝崎  田中  石田

「冷や」 10   9   9   9   8

「常温」  8   6   7   6   7

「熱燗」  7   4   5   3   6

 理念的に全体平方和は以下のように分解する。

 全体平方和=要因1の主効果の平方和+要因2の主効果の平方和+交互作用の平方和+誤差の平方和(個人差の平方和+要因1に対する誤差の平方和+要因2に対する誤差の平方和+交互作用に対する誤差の平方和*) *・・・2要因の個人間計画では括弧内は一括して誤差の平方和として扱う

 まず、全体平方和を求める。

 全体平方和=14.67+8×2+3.35×2+0.69×8+0.03×7+1.37×4+4.71×5+10.05=16+6.7+5.52+0.21+5.48+23.55+10.05 =82.18

 要因1の主効果の平方和は、要因2の各水準をまとめて要因1の各水準の平均-全平均を二乗してそれぞれのサンプル数をかけたものを足し合わせて求める。このさい、次のような表を作っておくと便利である。    

条件  「冷や」 「常温」 「熱燗」 平均

安東水軍 5.6  6.4  8.2 6.73

剣菱   9.0  6.8  5.0 6.93

平均   7.3  6.6  6.6 6.83

要因1についての表

各被験者 AllMean Mean1   Mean2

加藤   7.5  6.67   8.33

井上   6.3  6.33   6.33

芝崎   6.5  6.00   7.00

田中   6.5  7.00   6.00

石田   7.3  7.67   7.00

 

要因2についての表

各被験者 AllMean Mean1 Mean2 Mean3 

加藤   7.5  7.5 7.0 8.0

井上   6.3  7.5 6.0 5.5

芝崎   6.5  6.5 6.5 6.5

田中   6.5  7.5 6.5 5.5

石田   7.3  7.5 7.0 7.5

 要因1(銘柄)の主効果の平方和は、  

 A1+A2=0.10二乗×15+0.10二乗×15    =0.30  

 同様にして要因2(冷やか常温か熱燗か)の主効果の平方和は、  

 B1+B2+B3=2.21+0.50+0.50      =3.21  

交互作用の平方和は上の表の全条件についてのセル平均-全平均の二乗和-要因1の主効果の平方和-要因2の主効果の平方和であるから、  

 A×B=7.56+0.92+9.38+23.54+0.00+16.74-0.30-3.21      =56.43  

 次いで誤差の平方和を求める。誤差の平方和は全データについてセル平均との差の二乗を求め、総和したものである。  

 誤差平方和=0.36+0.16+2.56+0.16+1.96        +0.16+0.16+0.16+0.36+0.36        +0.64+1.44+0.04+0.04+0.64        +1.00+0.00+0.00+0.00+1.00        +1.44+0.64+0.04+0.64+0.04        +4.00+1.00+0.00+4.00+1.00        =24.00 (小数点2桁以降丸め数値で計算しているため、全平均平方和≠要因1の主効果の平方和+要因2の主効果の平方和+交互作用の平方和+誤差平方和、と値が若干違っているが、お許し頂きたい)  

 誤差平方和の中身であるが、個人差の平方和・要因1に対する誤差の平方和・要因2に対する誤差の平方和・交互作用に対する誤差の平方和に分解できる。  個人差の平方和であるが、各被検者の平均と全平均との差の二乗をデータ数だけ掛け全被検者で総和すれば求められる。この場合だと、  

 個人差の平方和=(0.45+0.28+0.11+0.11+0.22)×6         =7.02  

 次いで、要因1に対する誤差の平方和を求める。まずは上表「要因1についての表」の各セルから全平均を引いて2乗する。そして個人差と要因1の主効果をそこから引いた値が要因1に対する誤差の平方和ということになる。すなわち、  

 要因1に対する誤差の平方和=0.09+0.75+2.07+0.09+2.12+6.75+0.75+0.09+2.07+0.09           =14.87-7.02-0.30 =7.55  

 同様にして要因2に対する誤差の平方和を求める。今度は個人差と要因2の主効果を「要因2についての表」の各セルから全平均を引いて2乗したものから減じる。  

 要因2に対する誤差の平方和=0.90+0.90+0.22+0.90+0.90+0.06+1.38+0.22+0.22+0.06+2.74+3.54+0.22+3.54+0.90 =16.7-7.02-3.21          =6.47  

 交互作用に対する誤差の平方和の求め方は誤差平方和から個人差の平方和と要因1に対する誤差の平方和と要因2に対する誤差の平方和を引けば求まる。よって、  交互作用に対する誤差の平方和=24.00-7.02-7.55-6.47          =2.96  

 ここまでで、求めるべき数値はすべて出揃った。分散分析表を作成してみよう。        ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因  平方和 自由度  平均平方   F        ――――――――――――――――――――――――――――――――           個人差 7.02  4  1.76        ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因1 0.30  1  0.30 0.16  

         S1誤差 7.55  4  1.89                                   ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因2 3.21  2  1.61 1.99 

         S2誤差 6.47    8     0.81          ――――――――――――――――――――――――――――――――                                                                            交互作用          56.43 2 28.22 76.27

        その誤差  2.96  8  0.37              ――――――――――――――――――――――――――――――――           全体  82.18 29        ――――――――――――――――――――――――――――――――

 結果、要因1・2の主効果は有意差なし、交互作用が5%水準で有意となった。要するに酒の銘柄や温度それ単独ではその酒のおいしさは決まらず、いずれかの組み合わせ方が酒のおいしさを左右している、という結果が出たことを意味する。 

 

講座 心理学概論 2 心理学研究法 6 3つ以上の変数間の差の検定・・・分散分析(1要因被検者間計画)

 

 t検定の場合でも、ここで述べる分散分析の場合でも、統計的検定の基本的な発想は、「分散が大きい平均値ほどそれとしての意味は弱い」と言う考えに基づいている。

 ここでは、水準(変数群の数)が3つ以上ある場合の平均値の検定と、変数に差があればどれとどれの差なのかを分析する多重比較の方法について述べる。  

 差の検定は1回あたり例えば.05水準で行うものとすれば、3つの変数について行う差の検定は(1-.95の3乗)=.146になってしまう。そこで考え出されたのが分散分析である。3つ以上の群の分散分析では、      

 全体平方和=群間平方和+郡内平方和(誤差平方和)

と、全体平方和が分解できる性質を、平方和について利用し、分散の大きな要因の平均値ほど平均値としての意味が弱いと言う数学的性質を利用して差の検定を行うので「分散分析」と言う。例えば大学の心理学のテストで「優」「良」「可」のそれぞれの群の学生4人ずつの「心理統計学」での成績が10点満点で以下のような成績を修めたとする。

優   9    8     8     9

良   8    7     8     6

可   5    4     6     3

 ここで言えることは、全体で平均を取ると6.75点であった/群平均は「優」群8.5点、「良」群7.25点、「可」群4.5点であったと言うことである。したがって全体平方和は、   

 全体平方和=5.0625+1.5625+1.5625+5.0625+1.5625+ 0.0625+1.5625+0.5625+3.0625+7.5625+ 0.5625+14.0625         

      =42.25 

 次いで群間平方和(群平均-全平均)二乗は、   

 群間平方和=3.0625×4+0.25×4+5.0625×4        =33.5

 最後に群内平方和(データの値-群平均)二乗は   

 群内平方和=0.25×4+0.5625×2+0.0625+1.5625+0.25×2+ 2.25×2 =8.75

となり、「全体平方和=群間平方和+群内平方和」となっていることが分かる。続いて分散分析表を作る。分散分析表は以下のような体裁を取る。 ――――――――――――――――――――――――――――――

要因 平方和  自由度 平均平方    F ――――――――――――――――――――――――――――――

群間 33.5  2 16.75  17.27

群内 8.75  9  0.97 ――――――――――――――――――――――――――――――   

全体 42.25 11

――――――――――――――――――――――――――――――  

 上の図を見て分かるとおり、平均平方は平方和を自由度で割ったもの、Fは群間平均平方を群内平均平方で割ったものである。ここで自由度は群間(水準数-1)、群内((水準内標本数-1)×水準数)、全体(全標本数-1)である。F分布表で当該自由度の臨界値を見ると、1%水準のときのF(2,9)>8.02なので、「心理学の「優」・「良」・「可」によって「心理統計学」の成績は、1%水準で異なっていると言える」などと報告する。  

 しかし話はこれで終わらない。なぜなら、分散分析は「どこに差があったか」までは語らないためである。どこに差があったを知るためには、「多重比較」という分析が必要である。その方法はいくつも考えられているが、ここでは最も頻繁に用いられるテューキーの方法を紹介する。それには次式で与えられる検定統計量qを求める(ただし、各群のサンプル数が等しく、各群の母分散も等しいと仮定した場合)。                  

 

q=           

   比較する群の平均値差の絶対値

―――――――――――――――――――――――――           

√((群内の平均平方)/(各群のサンプル数))       

 このとき注意して欲しいのは、群の数は水準数そのものであること、群内の自由度は上記の通りであることである。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 5 相関係数とその検定

 ある変数Aと他のある変数Bに関連があるとき、「AとBに相関がある」と言う。相関は相関係数(ここではピアソンの積率相関係数)という変数で表すことができる。相関係数は次式で求められる。                     

          Sxy  

 相関係数(r)=――――――――

          Sx×Sy

                             

=((X-x1)(Y-y1)+・・・+(X-xn)(Y-yn)/n)/(Xsd×Ysd)

*・・・ここでSxyは共分散を、Sx・Syをそれぞれ標準偏差(つまりXsd・Ysd)を、大文字のX・Yをそれぞれの平均として表している。  

 r=.80以上の数値が求められればかなり強い相関、 .80<r ≦.60ならば強い相関、.60<.r.40で中程度の相関、.40<r≦.20で弱い相関、.00<r≦.20で相関なしと判断する。rは-1から+1のあいだに収まる。-の場合、負の相関があるということになる。  

ではその値はどれぐらい確からしいものなのだろうか。ここにその検定法を示しておく。       

 t=(r√(n-2))/√(1-r2)  

 このt値はt分布に従うことが知られている。したがって自由度(n-2)のt分布のtの値が臨界値(5%水準とか1%水準の値)以上か否かを見ればよい。結果は「5%水準で有意ではなかった」とか「1%水準で有意だった」などと報告する。  

 相関係数にはこのほかにもケンドールの順位相関係数、スピアマンの順位相関係数などがあるが、ここでは最も頻繁に使われるピアソンの積率相関係数を取り上げた。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 4 2つの平均値の差の検定

 心理学には、主に数値要約をその仕事の中心とする記述統計と、サンプルサイズを超えた母集団をサンプルから推し量ろうとする推測統計がある。筆者心理統計の基本的発想を一言で言うと「数値要約のウェイト(共通項)の分析」だと考えるが、この節ではそのあたりの話題を論ずるとともに、2つの平均値に差があるかどうかを推測するt検定について述べる。  

 数値要約の最もポピュラーなものは平均である。各サンプルから成る集合の各サンプルすべての総和をサンプル数で割ったものが平均である。平均の他にメディアン(中央値)、最頻値など数値要約する指標がある。外れ値(極端な値)がある場合は中央値を代表値にする方が適切である。では、数値要約はこれだけなのだろうか。数値要約には他に分散・標準偏差などがある。分散とは標本のばらつきの程度の指標で、データ1からデータnまでのそれぞれの数値について平均との差の二乗をとって総和しデータ数nで割ったものである。そのルートを標準偏差と言い、背後に正規分布を仮定できる場合、(平均-任意の標本)を標準偏差で割ったものがz得点と呼ばれ、「データは正規分布について標準化された」という。事象の分布には左右対称のなだらかな山が仮定され、これが正規分布と呼ばれるものである。山の両裾へ行くにつれ生起確率は小さくなり、z得点が-1.96以下か+1.96以上ともなると、その生起確率は5%以下になる。z得点を使った統計的検定にひとつの平均値の検定がある。ただしこの場合分散が既知でなくてはならない。  

 分散が未知の場合、不偏分散(データ数を(n-1)とした分散)が上記のような例では使われる。こうして求められた検定統計量をt値と呼び、t分布と呼ばれる分布図によって有意水準を知ることができる。そのさい自由度もまた(n-1)となる。対応のある(たとえば一卵性双生児の群一方ずつのような)2群のt検定の場合、z得点をtとして扱えばよい。  

 では独立な2つの平均値の差はどうやって検定できるのだろうか。独立な2群の平均値の差もまた正規分布することを考慮して、結論から書くと、 t=(X1-X2)÷√(((n1-1)σ1二乗+(n2-1)σ2二乗))/(n1+n2-2)×((1/n1)+(1/n2))) となる(フォントの関係でσと書いてあるのは不偏分散を意味する。以下同じ)。しかし2群のサンプルサイズが等しい場合は、 t=(X1-X2)÷√((σ1+σ2)/n) と単純化できる。このt値をもとにそれぞれ(n1+n2-2)、(n-2)の自由度でt分布を眺めれば、tが何%水準でどうなのかが分かるのである。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 3 適合度・独立性の検定

 心理統計学においては、スティーブンスによればある集合の名前以上でない尺度を名義尺度、順番を表しているに過ぎない尺度を順序尺度、絶対0点が定まっていないが四則演算ができる尺度を間隔尺度、絶対0点が定まっている四則演算ができる尺度を比尺度と呼び、それぞれに適用可能な統計的検定がある。  

 まず手始めに名義尺度でできる統計的演算を取り上げる。  

 期待度数と観測度数に大きなズレがあるかどうか、またはデータ全体から部分数値同士が独立ではないと言えるかどうかの統計的検定を「χ(カイ)二乗検定」と言う。例を2つ使ってそれぞれを説明する。  

 例1・・・六肢選択で麻雀が一番好きな人が20人、パチンコが一番好きな人が35人、将棋が一番好きな人が15人、囲碁が一番好きな人が10人、トランプが一番好きな人が10人、花札が一番好きな人が10人、の計100人がいたとする。このそれぞれの好みは期待度数(それぞれ6分の1)通り(つまりランダムに)に分布していると言えるかを統計的に検定せよ。  

 検定統計量χ二乗は以下の式で求められる。  

 χ2=(O1-E1)2/E1+・・・・・・・・+(On-En)2/En  ここで自由度は(n(カテゴリー数)-1)となる。         

 χ2=(20-16.6)2/16.6+(35-16.6)2/16.6+(15-16.6)2/16.6+(10-16.6)2/16.6+(10-16.6)2/16.6+(10-16.6)2/16.6=0.696+20.395+0.154+3(2.624)=22.117  

 自由度5のχ二乗値は22.117であった。この値は(心理統計の本の巻末に載っている)χ2値の有意水準p≦.01の15.086より大きいため、1%水準で有意である。よって、この100人の嗜好は偏っている、と言える。ここで言う「有意」とは「嗜好が偏っていると言える確度の高さ」のことである。1%水準で有意ということは、100回同じ調査をして1回だけ「偏りがない」と言う結果が期待されると言う意味である。なお、断りがなかったが、ここでは帰無仮説(特徴はない、と言う仮説)を対立仮説「特徴がある」で退けているが、このことを「帰無仮説の棄却」あるいは「対立仮説の採択」という。正しい帰無仮説を棄却してしまう誤りのことを「第1種の誤り」と言いこの可能性は有意水準に等しい。逆に誤った帰無仮説を棄却できない誤りのことを「第2種の誤り」と言いβで表す。(1-β)のことを「検定力」と言う。  

 例2・・・水泳をしているか否かとウォーキングをしているか否かについて200人から以下のような結果を得たとする。水泳とウォーキングに関連があるか否かを検定せよ。

水泳       する    しない   計

ウォーキングする 40    60  100

しない      15    85  100

計        55  145   200  

このような場合、計から期待確率を推計する。この場合、ウォーキングをする人は100:100で200人、水泳をする人は55:145で200人だから期待値は、

水泳       する   しない   計

ウォーキングする27.5  72.5 100

しない     27.5  72.5 100

計       55    145  200

となります。早速χ二乗値を求めてみましょう。     

 χ2=(27.5-40)2/27.5+(72.5-60)2/72.5+(27.5-15)2/27.5+(72.5-85)2/72.5=5.68+2.16+5.68+2.16=15.68 となって自由度3のχ二乗表を見ると1%水準の値が11.345以上なので、帰無仮説「水泳とウォーキングには関連がない」が棄却され、「水泳とウォーキングには関連がある」と言う対立仮説を採択する。  

 χ二乗値は、その計算式からわかるように、期待値と実現値のズレの総和である。それゆえ期待値が分かる場合の検定となっている。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 2 論文の書き方

 大学で「心理学基礎実験(通年2単位)」を履修した方は読まなくて良いです。  

 ここでは、心理学論文の書き方に触れておく。

 心理学の論文の体裁は「アブストラクト」「目的」「経緯」「研究方法」「被検体(被検者)」「結果」「考察(ディスカッション)」「結論」の順で書いていく。「アブストラクト」とは「研究のまとめ」のことで一目で見てわかる実験の目的・結果・結論の要旨のことである。  

 「目的」ではこの研究で何を追究するのかを書く。たとえば「(最初に見た時計の秒針の1秒が他の秒より長く感じられる)初頭秒効果の研究」を例に取れば、「なぜ物理的には同じ長さの1秒なのに時計に目をやった瞬間の1秒だけが長く感じられるのかを明らかにするために本研究を行った」などとなる。  

 「経緯」は、過去のその主題にまつわる研究をレビューして、「なぜその研究を行うのか」・「心理学研究の中でのその意義」を書く。  

 「方法」においては先の例で述べれば、「実験者が多数の被検者に同時に3針式の電波時計を持たせ、実験者は秒針が変わるジャストのタイミングで「ハイ!」と声をかけ被検者らに数秒間秒針を見てもらう。そしてその数秒間が過ぎた後に、「最初の一秒が最も長く感じたひと」と問い挙手してもらう。そして実験者は挙手した人数を数え上げる。そしてその後の数秒に対しても同様に挙手してもらい人数を数え上げる」と言ったように実験方法を記述する。確かにその研究でその効果を捉えているのかを確認するためにその効果をみる目的でその実験で見る変数以外(たとえば知能)はまったく同じ統制群を設定する場合には、それにも言及する。  

 「被検体(者)」は実験・研究の対象を書く。たとえば「生後30日~35日の実験的にナイーヴなアルビノラット20匹」、「男女100名ずつの学部学生」などとする。ここでは適切に実験被検体(者)が公平に選ばれていることをチェックできるよう記述する。  

 「結果」では実験・研究の結果をわかりやすく報告する。表や統計的検定結果もここで報告する。上記の例でカイ二乗検定(後節で説明)で有意に初頭秒の挙手率が高かったとする。その場合「x%水準で初頭秒の挙手率が有意に高かった」などと記述する。  

 「考察(ディスカッション)」では特異な効果や現象の原因、主張したい仮説とそれへの結果の適否、否とすれば他の考えられる可能性などを論ずる。上記の例では「視覚的順応過程が主観的時間の長さを生み出しているものと考えられる」などと記述する。実際には「結果と考察」はイメージを膨らませて様々に肉付けする。  

 「結論」において採択した仮説、自分の仮説との合否などを書き、論文を締めくくる。  

 最後にすべてをまとめ、「アブストラクト」とし、冒頭へ移動する。論文の末尾に引用した参考文献を記す。  

 これで一応の論文の書き方については述べた。

講座 心理学概論 2 心理学研究法 1 動物実験

 倫理上、人間では許されないような実験を遂行するために、また、言葉を持たない乳幼児などにかんする知見を得るために、動物実験が行われてきた。動物実験の被検体はハト、ラット、マウス、サルなどが主である。  

 動物実験を巡っては、2つの立場がある。1つは、どんな動物を使って実験をしても、その結果は必ずヒトに当てはまるという立場で、「普遍主義」という。学習心理学者の多くはこの立場を取っている。いま1つは、その動物で得られた知見は、その動物のみに有効な知見である、と言う立場で、「生物主義」と呼ばれている。動物行動学(エソロジー)の研究者の多くはこの立場を取っている。旧来学習心理学者が取ってきたこの立場に学習心理学内部からこれらの立場の対立が先鋭化したのは、ガルシアによる味覚嫌悪条件付け実験あたりからである。これは、ラットに新奇な味覚刺激を与えた後に数時間おいて中毒を引き起こす物質を投与すると、ラットは1試行だけの刺激-中毒を体験しただけで、味覚嫌悪条件付けが成立する、と言うものであり、ソーンダイクの効果の法則、ハルの習慣強度、アリストテレスやガスリーの接近の法則に対する挑戦であった。これを巡ってセリグマンはかかる現象の陰には「準備された連合」があると指摘した。これを裏付けるかのようにブラウンとジェンキンズはオペラント(自発的)条件付けで形成されると考えられていたハトのキーつつき反応が、古典的(反射)条件付けの手続きによって効率的に形成される事実を発見し「自動反応形成」と名付けたが、これもキーつつきという生得的反応が学習事態に侵入して起こる現象だとされた。また、ブレランド夫妻のアライグマの貨幣学習においても、硬貨が1枚の時は問題なく硬貨を硬貨として学習したのに対し、2枚になると突如硬貨同士を擦り合わせる行動が見られた(本能的逸脱)ことから、生得的行動が強化随伴性に拮抗して現れるのだと解釈された。こうした事実が報告されるようになってもなお、学習の基本メカニズムは種差によらないという学習心理学者の主張は変わらなかった。確かにワトソンのアルバート坊やの爆音によるハツカネズミへの恐怖条件付け(こうした実験は現在では倫理上認められていない)も、ラットへの音刺激による電撃への恐怖条件付けも原理は同じに見える。こうしたことから石田は、種に固有な学習形態と種を超えて普遍の学習形態が共存していると考えればよい、と指摘している。  

 なお、現在では日本心理学会の倫理綱領にもあるように、実験動物に対する実験であっても倫理的配慮が必要だと指摘されている。

講座 心理学概論 1 神経心理学 13 この章のまとめ

 神経心理学の課題は「こころ」を実現している生理学的側面の明確化にある。そのため、純生理学的研究のように人体自律のメカニズム(たとえば「ホメオスタシス(*)」「アロスタシス(*)」)を究明することにあるのではない(もっとも、「こころ」に影響を与える因子としては究明が必要であるが)。  

 心理学的現象にはそれを裏打ちする生理学的変化があった。学習・記憶などの現象の神経心理学的メカニズムも1949年ヘッブがシナプスの化学的物理的変化が学習のメカニズムであるというヘッブ則を主張して以来、こうした問題を(あるシナプスに高頻度で電気刺激を与えたとき、連絡神経の伝達効率が上がるというロモの)長期増強・(その逆の)長期抑圧というテーマで、たとえば利根川進らの研究グループは、空間学習にかかわるとされる海馬で長期増強が起こらないノックアウトマウスの学習能力が低下することを見出している、と言ったように、神経機構と学習・記憶の関係が明らかにされつつある。ミュラーのような生気論ではなく、デュボワ=レイモンやヘルムホルツの機械論が勝利しつつあるかのように見える。しかし、事は事ほど左様に単純なのであろうか。たとい機械論の立場で研究を続けていったとしても幾多の試練が待ち受けているであろう。また、この分野のフィールドワーク的研究の蓄積の小ささが、いささか目立つという思いに駆られるのは筆者だけであろうか。我々は主として心理学において、意味という観点から心を見て行こうとする。意味による過解釈を防ぐために生理学的研究に目を向けていたのではないだろうか?生理学的メカニズムに先立って心理学的、すなわち意味的現象があってはじめて「心理学的」研究は動機づけられてきたのではなかっただろうか?さまざまな生理学的神経学的事実をこれまで列挙してきたが、心理学はあらゆる角度からの心の理解に努力を惜しまないできた。  

 次章においては、そのような意味からも、どのようにこころにアプローチするかといった方法論的説明をする。心理学が実証的な科学たりえようとして心の豊かな内容をいささかも傷つけず、どんな工夫をしてきたかを歴史的時間軸に沿って書いて行く予定である。  

 筆者、常識的見解のように学の成立は方法論の成立にあるのではなくて、学の自覚にあるのだと考える。そのような主体的立場から見て、あえて方法論を前面に押し出すようなことはしない。あくまで心理学的研究を実際行う立場から見て便利なように方法論をまとめて述べるに過ぎない。読者諸氏はこのことをあくまで忘れないで欲しい。

(*)「ホメオスタシス」・・・生体が生理学的均衡を保とうとするメカニズム。キャノンが幾多の実験を経て提唱した。    

「アロスタシス」・・・・自律神経系による、変化を介しての生体の均衡維持メカニズム。たとえば「血圧」など。