講座 心理学概論 9 発達心理学 12 発達上の病理

 人間が発達する途上で何らかの障害や問題に直面することはあまり珍しいことではない。  

 かなり大雑把な内容になってしまうが、それらの問題を概観しておきたい。  

 それらを学校や職場と家庭や地域の問題に大別して俯瞰してみよう。  

 学校や職場で典型的な問題は、器質性・非器質性の精神障害はもとより、知的障害、自閉症、ダウン症、いじめ、緘黙、不登校、学校・職場内暴力、学級崩壊、ADHD、セクハラ、パワハラ、バーンアウト、学習性無力感などである。  

 家庭や地域の問題は、DV、夫婦の不仲、モンスターペアレント、虐待、ひきこもり、ネグレクト、ストーカーなどである。  

 精神障害とか知的障害、そして自閉症、ダウン症、ADHDなどの神経障害は基本的に疾患であり医療の対象であるが、それらを除く他の問題群の多くは現代の成績至上主義のタテ社会と閉鎖家族のストレスに起因する問題だと言えるであろう。  

 現代の社会システムと言う観点からこれらの問題を見てみると、その多くは社会の抱えている矛盾の表現型だと言える。  

 たとえば、現代の一般的な夫婦は共働きを強いられており、子育てに専念する余裕のない大人が増えている。そうなると、職場ストレスの発散の場に家庭がなってしまうわけで、そのあおりを受けた子どもが家庭においても学校においても問題行動を呈してしまうと言う悪循環に陥る。  

 教育的配慮でそれらの問題を緩衝しようとしても、親権の問題や教師が子どもに配慮すると言っても40人もの子どもをあたかも親であるかのように育てることは不可能と考えるべきであろう。  

 問題ごとに対応機関の窓口は異なる。子どもの問題行動は児童相談所や警察や家庭裁判所に、大人のそれは各自治体の相談窓口・無料弁護士相談や警察や大学のカウンセリングルームなどになる。  

 しかし、そのような機関も人権との絡みで十分に機能しているかと言えば、残念ながらそうは見えない。特に児童相談所などは多くの事例においては適切な役割を果たしてきた。だが、たとえば巡回が不十分だったとか対象関係者の態度から問題が把握できなかったと言う悲劇は後を絶たない。  

 そう言った意味で、いわゆる「ご近所さん」の役割は昔に増して重要になってきているが、それも筆者が育った名古屋の下町のように人情味に溢れる有効なコミュニティは衰退の一途を取り、どこまで啓発することによってさまざまな社会病理の検出と適切な対応機関への通報が容易になるのかについては、まったく楽観を許さない状況にある。この前、名古屋大学の女子学生が殺人事件を起こすと言うショッキングなニュースがあったことを覚えておられる読者の方も多いことであろう。精神鑑定にあたる専門家にしか正確な原因は分からないであろうが、子ども時代に友情なり愛情なりと言う人間らしい共感力を育まれることなく孤独を深める現代の社会への何らかの理由による歪んだ欲求のエントデッケン(顕現化)のもたらした復讐のように見えなくもない。たとえばの話になるが、厳格すぎる人間関係によって「密室の喜び」を殺人と言う犯罪に見ていたのかも知れない。  

 もっと大きな問題として、最近中東の政治情勢を暴力で変えようとする「イスラム国」などの犯罪集団が日に日に勢力を伸ばしており、社会疫学的な見地からは我が国も対岸の火事として楽観できない状況にある。日本では「オウム真理教事件」に見るように犯罪に親和的な人間が現代社会の矛盾として相当数存在する。  

 ご近所さんなどとのつながりを大切にしないと、もはやどんな凶悪犯罪が我が国のどこで起きても不思議ではない。警察が検出できる問題や犯罪には限りがある。ひととひとがつながっていることでしか社会のストレスを下げ、さまざまな社会病理に立ち向かう有効な手立てはないと、ひとびとは認識すべきである。

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