講座 心理学概論 10 社会心理学 6 世論とデマ 

 この節では先に述べた「クロスオーバー社会」における人間の情報の状況認知の問題について考えてみようと思う。  

 典型的なものは「世論」であろう。そこで世論と言うものの形成過程について考えてみたい。  

 現代社会においては世論の形成に果たすマスメディアの役割が特に注目しなければならないように思われる。マコームズとショーは、マスコミの情報選択によってひとびとに「どの情報が重要か」を左右する点に着目し、そのようなマスコミの情報選択のことを「議題設定」と名付け、マスメディアの議題設定によってひとびとの情報の重要性が規定されていることを調査によって明らかにした。そして彼らは、マスコミの議題設定はひとびとの思考の内容を規定するわけではなく思考の対象を規定すると考えた。  

 さらにデイヴィソンは、我々がよく選挙などで誰に投票しようとするかを決めるときに「第3者、言い換えれば他人様はどう言う選択をするだろうか」と言うことを考えて一票を投じることがあるので、彼はこのような現象に「第3者効果」と名付け、それまでは有権者の主体的な意思で投票行動が行われると考えられていたそれまでの考え方の再考を促した。  

 世論には大勢の意見が見えてくるとひとは自分の持っている少数派の意見について表出しなくなると言う現象が見られる。これがノエレ=ノイマンの指摘した「沈黙の螺旋」と言う社会現象である。  

 世論を決定するファクターは様々である。上述の議題設定の他にも世間一般が持っている危機感とか欲求不満だとか社会問題への意識なども世論を形成する大きな要因であろう。  

 さて、「世論」に付き物なのが「流言」すなわちデマである。  

 デマがなぜ生じるのかについては大きく分けてオールポートの考え方とシブタニの考え方の2つがある。  

 我が国でデマが社会に与えるインパクトを考えさせられるきっかけになった事件がある。いわゆる「豊川信金事件」である。この事件では豊川信金に多くの預金者が預金を引き出そうと殺到したため「取り付け騒ぎ」が起こった。  

 この事件のことの発端は他愛ない女子高校生たちの会話に始まっている。電車の中でひとりの女子高生が「私、豊川信金に就職するのよ」と言いそれを聞いたもうひとりの女子高生が「えー、豊川信金は危ないよ」と言ったのを他の乗客たちが聞き、その噂がどんどん広がって行って取り付け騒ぎにまで発展したわけである。  

 有名なパーソナリティ心理学者であるオールポートは、流言、つまりデマが生じるのには、当事者にとっての話題の重要性とその話題についての情報の曖昧さの相乗効果が働くと考えた。彼の考えた有名な公式は以下のようなものである。「デマの流布量~A(曖昧さ)×I(重要性)」。  

 これに対しシブタニは、曖昧な状況を合理的に理解するためのものがデマだと主張した。彼によればマスコミなどの制度的チャンネルによって十分に情報が与えられていない状況でデマが発生すると言う。  

 マスコミと言うものがなぜ現代において我々にとって有効な役割を持っているのはなぜかと考えると、それはまず第一の理由として我々に影響を与えている、あるいは与えるかもしれない状況については予めひとびとに知ってもらうことによって我々がどうあるべきかを考える機会を与えると言うところにあるように思われる。  

 しかし、インターネットが普及した現代においては、マスコミの果たす役割の限界を補完する機能があるように思われる。  

 いずれにしても、「世論とデマ」のからくりはそう言うもので、我々がどう接して行けば良いのかを読者の皆さんもたまには真面目に考えてみていただきたい。

 加えて、「デマ」と言う議題設定自体の限界も意識したい。事柄の性質によってデマの生じやすさと発生機序は異なるであろうことは誰にでも想像できることである。

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