講座 心理学概論 10 社会心理学 5 対人魅力

 なぜひとはひとを好きになるのであろうか。  

 それはひとがあるひとに「魅力」を感じるからであろう。この節ではそのような「対人魅力」の問題を扱う。  

 一般に心理学では対人関係のはじめのうちは外見など見てくれを重視するが、時間の経過に伴って人柄などの内面を重視するようになると言う知見が認められている。山中の研究によると、ひとがひとに魅力を感じ、親密化するか否かは数週間で決まると主張している。  

 恋愛の初期過程を考えてみると、さまざまな要因が働いてひとはひとを好きになるようである。とりわけ大きなものが「印象」である。アッシュの研究では対人的な印象はそのひとの人柄を表す言葉の順序を様々に変えて被験者がそのひとの印象語を提示する順序によって対人的な印象は大きく変わることを明らかにした。たとえば、好ましい印象語を冒頭に持ってくる場合と、そうではない印象語を冒頭に持ってくるのでは、好意度は前者の方がはるかに高くなることを突き止めている。  

 恋愛における初頭の魅力は、自分の外見と相手の外見がそれほど魅力度が変わらない相手に好意を持ちやすいことが様々な研究でたびたび指摘されてきた。これを「釣り合い(マッチング)仮説」と呼び、恋愛の重要なファクターであると考えられている。  

 他にも、金銭を多く持っている男性や社会的ステータスの高い男性や才覚のある男性に女性は惹かれるとか、バーンとネルソンの「類似性-魅力仮説」のように、態度や知識や趣味の共有できる異性にひとは魅力を感じると言う研究もある。  

 ところで、アカデミックな対人心理学に「恋愛心理学」と言う分野はないが、巷にはよくひとびとは「恋愛心理学」なるものを信じているようである。いわく、「相手が嘘をついているときには視線が右上を向く」とか「腕組みをされたら嫌われている」など。これらはすべて科学的な根拠はないので、夢のない話で申し訳ないのであるが信じるに値する知識ではないことをここに断っておく。  

 ただし、次の一点は実験的に確かめられている。  

 人間は、光の明るさに応じて瞳孔の大きさが変わることは周知の事実であるが、ヘスは対象への興味のあるなしに応じても瞳孔の変化が見られることを実験的に検証した。たとえば男性に女性のヌード写真を見せると、瞳孔の大きさは2割ほど大きくなり、女性の場合だと男性のヌードの他に赤ちゃんを抱く女性の写真を見ても同様の変化が見られることが分かったのである。  

 この知見を対人関係一般で知っていると、ちょっとだけ有利かも知れない。話している相手の目を見れば、自分に興味を持っているのか否かが推定できるためである。  

 人間の対人認知についても認知心理学の章で紹介した「確証バイアス」が見られる。よく「第一印象は大事」と社会では言われるが、この「第一印象」と言うのは一種の確証バイアスであるので、そのひとが本当はどんなひとかは関係の進展を進める中で理解するようにしないと、関係の進展を「第一印象」が大きく規定してしまうことになりかねず、偏見でひとを見てしまうことがあるように思われるので注意が必要である。  

 「好き」と言うことはひとそれぞれの何を人間に重視するか、心理学的に言い換えれば人間のどの面に自我関与(感情的巻き込まれ)しているかと言うことによっても、様々に変化する。また、人間関係の途中でどんな場面でどんな他人といて、そこで生じた覚醒と言う中立な心理状態をどのように解釈するかによって、それが他人の属性に帰属されるとそのひとに魅力を感じるなどの、シャクターの「情動2要因論」から説明することも可能である。  

 人間と言うものは一度好きになるとずっと好きでいて、一度嫌いになるとずっと嫌いなままと言うことも多い。また、異性の魅力を外見に集約する傾向もなぜ起こるのかと言うことを考えると、好意・嫌悪の継続にせよ外見への魅力の集約にせよ、「思考の節約」ができるからではないかと筆者は見ている。いわゆるマッハの「思惟経済説」である。しかし人間の親密化過程と言うのはお互いの情報のどこまで深くまでを詳しく知ることによって成し遂げられることを考えると、そのことを忘れないことが人づきあいにおいて得をする、と考えるべきものと思われる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です