講座 心理学概論 10 社会心理学 4 社会の種別と心理機制

 我々の身を置く社会は、大別すると2つの種別の社会に分類できるように思う。  

 それは、「目的集団(意図的社会)」と「非目的集団(クロスオーバー社会)」の2つである。  

 前者の代表例は国家に始まって、政府、官僚機構、学校、会社、家庭その他さまざまな目的のもとに設立された集団(学会とか経済団体、NPOやコミュニティなど)などであろう。  

 後者は意図的でない人間の集団で、大衆(マスコミの視聴者や週刊誌の読者など)、街でひとびとが行き交う公衆、一時的かつ一意ではない目的で集まった聴衆や群衆、攻撃的な乱衆などであろう。  

 これらは言い換えると、「面識のある集団」と「面識のない集団」と言うことになるかと思う。  

 面白いことに、我が国の昔の「ムラ社会」では「面識のないひと」と出会うと驚くが、都市社会では「面識のあるひと」と出会うと驚くと言う心理機制の違いが生じている。  

 さらに「目的集団」は「利益追求社会」と「人間関係追求社会」に分けられる。前者は広い意味で、「世のためひとのため」と言う意味で、現代の民主主義国家やコミュニティやNPOやボランティア集団などの「ヨコ社会」も含まれると解してほしい。要するに「目的集団」と言うのは「組織社会」と言う意味である。  

 組織社会に働く心理機制は様々ある。たとえば、学校の子どもが教師の期待によって成績が上がるというような「ピグマリオン(ローゼンソール)効果」とか、「このひとはさる大学の教授の息子です」と言われるとさぞ優秀な子どもなんだろうと存在を高く見積もる「ハロー(光背)効果」とか、そんなことを言われている子どもについてのひとびとの印象形成は「大学の教授の息子」と言う社会的に有利な方に認識が全般的に偏る「アンカリング」、仕事ができると認知されている人物が仕事上のミスをしたり、逆に仕事ができないと認知されているひとが成果を上げるとそれが目立ち印象が大きくシフトする「ゲイン-ロス効果」、組織には多くの人間がいるので自分ひとりぐらいは何もしなくても良いだろうと考えて生ずる「社会的手抜き(ソーシャル・ローフィング)」など枚挙にいとまがない。  

 組織社会を把握するための有名な理論に三隈二不二の「PM理論」がある。類似の理論が多数あるのでこの理論をその代表として説明する。組織社会には、「目的達成のための行動(パフォーマンス:P)」と「人間関係維持のための行動(メンテナンス:M)」の2種類が存在し、組織の優れたリーダーと言うものはこれら両者に長けているとこの理論では考えられている。  

 では、「非目的集団」に働く心理機制にはどのようなものがあるであろうか。  

 選挙の際に、世論調査などを行って候補者たちの優勢や劣勢が伝えられると、優勢なひとに投票したくなる心理(勝ち馬効果あるいはバンドワゴン効果)と、逆に同情から劣勢のひとに投票したくなる心理(負け犬効果あるいはアンダードッグ効果)などの「アナウンス効果」が大衆には見られる。  

 また、マスコミなどで「信憑性が高い」とされた情報の送り手は、説得効果が高くなると言う「スリーパー効果」、何らかの問題で多くのひとは自分はそんなにまずくないと感じる「平均以上効果」、優勢な意見は語られる機会が増えるのに対して、劣勢な意見はどんどん語られなくなっていくと言うノエレ=ノイマンの指摘した「沈黙の螺旋効果」などが見られる。  

 他にもロッターと言う心理学者が提唱したものごとの「統制の座」が自分にあるのかあるいは外側にあるのかの認知によって無力感の消長が規定されると言うアブラムソンの「改訂学習無力感理論」がある。  

 犯罪に巻き込まれたひとびと同士が、犯人に対して好意を持つことが立てこもりの犯罪などにはよく見られる。このような認知バイアスのことを「ストックホルム症候群」と言う。  

 これまで述べてきたことから、「目的集団」、「非目的集団」にはそれぞれの社会形態に応じたさまざまな心理機制が働くことを理解いただけたものと思う。

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