講座 心理学概論 10 社会心理学 13 犯罪心理学概論

 我が国における犯罪の検挙率は95パーセント以上と、犯罪を犯したとして得になることは何もないことを警察白書は我々に教えている。裏を返せば、それだけ我が国の警察は優秀だとも言える。  

 なぜ犯罪が起こるのであろうか。マートンの「社会的アノミー理論」では、社会における経済格差がその要因だと指摘され、同じ用語でも「社会的無規制状態」を「アノミー」と呼び犯罪の濫觴だと考えたデュルケームと双璧をなしている。  

 バージェスはマートンの「アノミー理論」を実際のアメリカの市街地近郊の移民や難民の流入が多く、流動的で貧困層が多く住む地域の犯罪の多発率が多いことを実証し、そのような地域のことを「遷移地帯」と呼んだ。  

 多くの心理学者が非行少年を調べた結果、一般に成績不振児が多いことを指摘した。この中には、家庭の事情で学業に打ち込めないために成績が不振な子どもらも含まれる。  

 犯罪研究から、多くの犯罪者は性格5因子検査(いわゆる「ビッグ・ファイブ」)のうち、協調性と勤勉性に欠けていることが報告されている。他の研究では情緒不安定と犯罪の関連も指摘されている。  

 犯罪の一番特徴的な人間的要因はファーリントンが指摘した「衝動性」である。このような知見から犯罪者予備軍の検出を目的とした「刹那主義」と「利己主義」の2つの測度から成る「低自己統制尺度」をグラスミックは開発した。  

 では、防犯のために我々は何をすればいいのであろうか。  

 サンプソンとラウブは犯罪者を犯罪から引き離すための重要なライフイベントを「結婚と就職」であると述べている。責任のある立場に人間が立てば、犯罪は減るであろうことをこの指摘は示唆している。筆者はもうひとつ考慮に入れていいファクターがあると考える。それは病気も含む「災難(disaster)の中の救い」である。  

 公園の設計などでは、見通しが良く明るい公園の方が犯罪を起こしにくくさせると言う観点からジェフリーが提唱した「環境設計による犯罪防止(CPTED)」などの考え方が取り入れられている。  

 もうひとつ重要な指摘がある。社会においてなぜ犯罪が起こりにくいか、と言う理由について考察したハーシーは、「ひとびとの絆が犯罪を抑制する」と言う「社会的絆」理論を提唱している。  

 ここまでは、犯罪の生起要因について述べてきた。次に、犯罪者の検挙でよく用いられる手法を紹介したい。  

 犯罪に悩まされていたアメリカでは、FBIが「犯罪者プロファイリング(特定法)」と言う手法を開発した。彼らは犯罪現場に残された証拠などから犯罪者の属性などさまざまなファクターを統計的に解析した結果、どのような事件が同一犯による犯行であるかについてのデータを蓄積し、犯罪を社会的にしっかりした地位についていて知能も高い「秩序型犯罪」と逆で多くは職を持たず知能も低い「無秩序型犯罪」に分けられることを見出した。  

 それをもとに、より高度な統計解析を行うことによって犯人の性格・属性やどの事件と犯人が同一犯かなどをさらに正確に割り出すプロファイリングをリバプール大学のカンターは考案した。彼は地理的プロファイリングと言う手法も考案し、犯行状況から犯人がどこに勤めているか、どこに住んでいるかなどの情報を俯瞰し、犯人は複数の犯行現場の円内に居住していると言う「サークル仮説」と言う仮説を提唱した。他にも円の重心に犯人の住居があると言う「重心仮説」や犯人は自分の住居から一定程度しか離れていない同心円状のドーナツ型の地点では犯罪を犯さない、と言う「バッファー・ゾーン仮説」などが提唱されているが、そのどれにも一定の妥当性があると報告されている。  

 検挙された容疑者が「ハイ私がやりました」と自供するとは限らない。このような場合に警察の鑑識などでよく用いられる検査法が「ポリグラフ検査」である。この検査は、呼吸数、脈拍数、皮膚電気反応を犯人に犯行などについて尋ねている間の変化を捉える検査法である。  

 ポリグラフ検査においては、我が国で使われている「犯行知識質問法」が精度が高いので紹介する。  

 この検査法では、犯行と関係のない(たとえば、「毎日散歩していますか」とか「公園は楽しいですか」などの)質問のことを「緩衝質問」と呼び、犯人にしか知りえないような事実についての(たとえば、「あなたはAさんの背中を包丁で刺しましたか」とか「Bさんが盗まれた財布の色はグレーでしたか」などの)「採決質問」を織り交ぜて容疑者に尋ねる。緩衝質問と採決質問のあいだに明白な生理指標の差が見られれば、その人間が犯人である可能性が高いと考えるわけである。  

 以上、非常に大雑把かつ端的な内容になってしまったが、この節を終わることとする。

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