ひとは社会で他人からどう思われているか、どう思われたいかを常に気にして生きている。社会心理学では「他人に自分どう思わせようか」と言う問題のことを「印象管理」と言う。
ゴフマンは印象管理が自分について他者が持っている情報が不足しているときに、次の3つの局面に印象管理が集約されると考えた。
まず第一に印象管理で重要なのは、「整合性」だと言う。もし医師が金髪だったとしたら、どんなに優秀な医師でも患者さんの多くは引いてしまうだろう。第二に、「局域」と言うものができる、と言うことである。印象管理のために表向き出している「表局域」と心の内部に隠してあるそれとは反対の「裏局域」にひとは心を分化させると言う。最後に、それらの「表局域」と「裏局域」を「表局域」に集約させる「神聖化」の過程を辿る、と言うことである。
読者のみなさんにも何かに打ち込んでいるときに他人が隣に座ると能率が落ちると言う経験をした方も多いであろう。それは、印象管理の方に意識が行ってしまうためである。
一般に印象管理には「ABC」が大事だと言う。ひとつは「外見(アピアランス)」、次に「行動(ビヘイビア)」、最後に「コミュニケーション」の3つである。
印象管理における重要なファクターとして「ゲイン-ロス効果」が挙げられると考えられる。普段きつい性格のひとがたまたま優しい態度に出ると、好感度がそれまで以上にアップする。逆に普段おとなしいひとがたまたま激昂すれば逆に好感度が下がる。これは一種の認知バイアスなので注意が必要である。
印象管理のことを「自己呈示」と呼ぶことも心理学では多い。その中には自分の印象を能力が高いことを印象付けようとする「自己宣伝」、好感が持てる人間だと相手に認知させようとする「取り入り」、自分には社会的価値があることを印象付けようとする「示範」、力を持っていることを思い知らせようとして行う「威嚇」、自分は可哀想な人間であることを印象付けてひとから援助行動を引き出そうとする「哀願」などがある。
自己呈示行動をひとが取ることによって自己概念が変化する「自己呈示の内在化」と言う現象が起こることが様々な研究で確認されてきた。そのさいに重要な3つのファクターが挙げられている。
1つは「公共性」、1つは「選択」、そしてもう1つは「他者の反応」である。一般にひとが公にさらされているほど内在化は進み、自分で自己呈示行動を選択したと言う認識が強いほど同様であり、他者に好意的に受け止められるほど内在化は促進される。また、ひとの自己概念が明確ではないほど内在化は促進される。
この「自己呈示の内在化」にも制約がある。記憶に残っている範囲で過去の自分の自己呈示と相容れない部分があると自己呈示は内在化されにくく、整合性が取れていると内在化は促進すると言う「バイアスド・スキャニング過程」を経て自己呈示の内在化が規定されてゆく。
テダスキによると、ひとは防衛・回避、影響・強制、制裁・報復、印象操作、同一性の維持のためにしばしば自分の力を見せつけようとする。人間は誰しも自由を求める。自分が対人的に危機に陥ったとき、そう言った行動を取ることによって社会的な認知を導こうとするのである。
前節でもすでに取り上げたように、自己呈示と自己開示には密接な関係がある。たとえば学校での教師と生徒の関係においてレシプローカル(相互的)にお互いが胸襟を開くことによって印象を規定しあっている事実などにそれを見ることができよう。
人間はある意味で「解釈の動物」である。自分がどのように他者に印象付けられるかは現在の態度や行動だけでなく、過去の言動などによっても左右される。
特定の集団による集団の印象管理と言うものも存在する。企業による企業イメージの社会への定着にも印象管理は行われている。それについては「ビジネスの心理学」に触れたとおりである。
印象形成において一番大事なことは、他者への共感性があるかどうかということである。他者に優しく穏やかに接することは、良い印象管理のストラテジー(方略)として非常に有効である。