講座 心理学概論 8 感情心理学 9 感情の諸理論

 心理学の世界では古くから感情というものを説明しようとする理論が存在し、現在はそれらがより洗練された形で生き続けている。  

 先述の通り、科学としての心理学の祖ウィルヘルム・ヴントは、「感情の3要素説」を提唱した。彼によると感情には以下の3つの要素があると言っている。すなわち、「興奮-鎮静」、「緊張-弛緩」、「快-不快」の3要素である。  

 同時代を生きたティチェナーは、どんな心理現象も物理学の原子論と同じで、それらを構成する異質な分子の構成こそが心の働きに他ならないと説き、たとえば「嫉妬」は「憎しみ」と「羨望」に分解できると言う。  

 そして現れたのが、前節までで紹介した「ジェームズ・ランゲ説」をはじめとする一連の感情理論であった。  

 そしてその後は、感情の分類をフィールドワークから試みる研究と、感情が起こるメカニズムにかんする理論に分かれていった。  

 前者から触れよう。

 感情の分類については、エクマンの分類が有名である。彼によると、感情には、怒り、恐れ、軽蔑、喜び、悲しみ、嫌悪、驚きなどがあると言う。そしてそれはある一定は文化普遍的だと主張している。多少の分類の相違はあるものの、イザードやプルチックもこうした分類を提唱している。なお、プルチックは「混合情動モデル」と言う現代版ティチェナー理論を提唱している。感情の文化普遍性については、文化が感情を決定づけるとするカシオッポの指摘が議論の的となっている。  

 そして後者である。  

 まず読者に覚えていただきたい理論に、ダマシオの「ソマティック・マーカー(身体信号)説」がある。この理論は、対象に接近したときに感じる「快-不快」の身体信号が対象への接近・回避を決定づけるという理論である。  

 あと簡単に有名な感情の起こるメカニズムに注目した研究と効果を2つずつだけ紹介しておきたい。  

 オートニーのOCC理論と言う理論では、最初に抱いた感情が核になって、感情の同定が階層的に行われるとする理論である。たとえば、ある異性に好意を抱いたとする。そして、その異性の言動から人間像を好意的にか嫌悪的にか持つに至り、さらに異性への感情はハッキリしてゆく。  

 もう一つの理論は、シェーラーの「要素処理説」である。彼は、情動が生起する条件には優先順位があると考えた。具体的には優先順位の高い順に、「新奇性と非予期性」、「快-不快」、「目標との関連性」、「対処可能性と因果関係の帰属」、「刺激状況の社会的規範と自己概念との比較」と言う感情の発生メカニズムがあると主張している。  

 最後に、感情にまつわる2つの効果について触れて結びとしたい。  

 個人の表情を認知する際に、怒りよりも喜びの方がその特定が速い現象を指して「ハッピー・フェイス・アドバンテージ・エフェクト」と言う。旦那さんが妻の怒りよりも喜びを認知しやすいと言うことは、夫婦円満の秘訣でもあり、決して旦那さんが鈍感な訳ではないことを世の奥様方は覚えておいていただきたい。  

 また、集団における表情検出は、怒りが最も的確に検知されることが知られている。これを、「フェイス・イン・ザ・クラウドパラダイム」と言う。国会で野党の追及が目立つのは、この効果のせいだと言うことができる。

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