我々は、会話やメールなどでひとの気持ちを伝えたり伝えられたりする。そのとき、我々はそれらの文脈から相手が持っている感情を読み取ることも多いであろう。
しかし、厳密に言うと、こうした心の機微は文脈が変われば読み取り方も違ってくるので、実験を通しての科学としての心理学の方法論からは、文脈を限定するか、日誌法・観察法・質問紙法などによって客観化しなければ一定の結論を導くことは難しい。
最も感情心理学で使用されることが多いのは、質問紙法である。ある経験をしたあとで、あるいはある経験を思い出して、感情語の対から当てはまる当てはまらないを被験者に回答してもらい、感情の測定を行おう、と言う方法である。ただ、この方法は心理学内で長く続いた「主観測定か行動測定か」の問題で「行動測定」が持つ言葉を持たない乳幼児や動物、言葉の理解が不確かなひとびとへの適用が難しいと言う難点がある上に感情を被験者が正確に認知して報告しているかが確認できないという限界を持っている。
観察法は、感情の表出を研究者が評定する第三者的観察と、それを被験者が推測評定する当事者観察法の2つに大別できる。後者は文化人類学的方法で、エクマンらによる基本的感情の文化普遍性の主張の方法論的根拠となっている。
感情の測定には生理学的アプローチもある。呼吸・発汗・血圧・心拍・瞳孔測定などによって、特定の感情に特有な生理学的変化を探る研究などで使用されている。他にも血中ホルモンや脳の活動を測定して感情の生理学的基盤を探る研究もある。特に後者で発展著しいものに、fMRIなどによる脳機能画像的アプローチがあり、血中酸素濃度から感情が生起しているときにどの脳部位が酸素を消費しているかから脳の活動部位を探り出す研究が盛んに行われている。このような生理学的アプローチは、被験者を拘束するので被験者の負担も大きいが、意図的に被験者が反応をコントロールすることができないので、信頼性が高い方法だと言える。
最後に、感情の研究における方法論のもっともオーソドックスなものとして実験法を挙げられるであろう。実験法では特定のトピックや物語を被験者に提示し、普遍的に感情に伴って起きる認知・行動への影響が認知心理学的研究などで調べられている。社会心理学などでは気分誘導という手続きが取られることが多い。すなわち、被験者が特定の感情状態になるように状況を作為的に設定し、デセプション(騙し)を使って本来の実験の目的を隠してある感情状態が生じたときにひとはどのように行動するのかを法則的に見出していく実験手続きである。現在、このような実験がどこまで許されるかについて、活発な議論が行われている。