講座 心理学概論 8 感情心理学 2 動機づけ 閑話休題

 前節でも述べたように、動機づけとは、行動を始発し、維持し、満足するまで継続させる心理的な力のことである。この動機づけの中には様々な情動が含まれることは、例えば怒れば相手が謝るまで怒り続けるとか、好きな人ができたら相手が交際を認めてくれるまで猛アタックするとかの事例を振り返れば、納得がいくであろう。  

 筆者、大学時代に、意外な視点から動機づけを考えるアメリカの研究者の論文を読んだことがある。  

 エイブラム・アムゼルとジャクリーン・ラッセルと言う研究者が書いた「フラストレーション(欲求不満)の動機づけ的性質」と題する実験論文がそれであった。  

 彼らは、フラストレーションには動機づけの機能があると、その論文の中でラットを被験体とする実験を行い、主張していた。  

 実験の概要は以下の通りであった。  

 出発箱と目的箱を直線走路で結んだ実験装置の中に、まずは出発箱に空腹のラットを入れ、ギロチンドアで何十秒か出発を遅らせる群と、すぐにドアが開く群を用意した。目的箱には任意のとき入れるようにスイングドアを箱の入り口に設けてあり、目的箱には餌が入っていた。それを10試行ほど繰り返した。それぞれの群で走路を走り抜けるタイムを測定した。  

 それぞれの群の走路を走り抜けるタイムの測定が行われた。  

 その結果、出発箱で待たされる群の方が有意に走路を走り抜けるタイムの平均が短いことを彼らは確認した。  

 出発箱で待たされることは、操作的にフラストレーションを引き起こす事態であると彼らは定義していたので、彼らの仮説は実験結果により支持されたことになる。  

 その後、この事実を確認するため、筆者らはこの実験を再現する形で追試を行った。結果はアムゼルらの報告通りであった。  

 一般にフラストレーションと言うと、欲求が満たされないために起こる結果的な感情ないし情動だと解される場合が多い。オモチャを買ってもらえない子どもがぐずるとか、ご褒美をお預けにされて怒るとか、日常的な例には、「結果としてのフラストレーション」と言うイメージを持ったものが多い。  

 一方、アムゼルらは、「褒美をお預けにされたので、お預けが解けるまで努力する」とか、アラビアンナイトの「千夜一夜物語」に出てくるシェヘラザード妃のように残忍な王シャリアールに殺されないようにシェヘラザード妃が「この物語の続きはまた明日」と言って王に殺すことを忘れさせ、ついには生きて帰ると言うエピソードにあるように、フラストレーションを一種の動機づけと見たのである。  

 この話は、昨今の「受験地獄」をどう乗り切るかのヒントを与えるものである。読者諸賢もフラストレーションを上手に動機づけに変え、心豊かな生活を送られることを願うものである。  

 なお、アムゼルらがアラビアンナイトの中のこの話を知っていたか否かは不明である。

(出典:Amsel, A. & Roussel, J. 1952 Motivational properties of frustration: I. Effect on a running response of the addition of frustration to the motivational complex. J. exp. Psychol. 43, 363-368)

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