講座 心理学概論 8 感情心理学 3 一次的欲求

 

 我々は眠り、食べ、飲み、異性を求め、体調を維持しながら生活している。このように、生理学的メカニズムに基づき生体維持のために必要不可欠な欲求のことを「一次的欲求」と言う。  

 一次的欲求には、生体を一定の生理学的状態に維持する力である「ホメオスタシス(生体の恒常性)」に基づくものと、そうでない生殖欲求などがある。  

 一次的欲求がいかにして生じ、いかにして終結するのかについて、この節では考えたい。ここでは、睡眠、水分調節、食欲について述べる。  

 実験で動物の睡眠を数日剥奪すると、動物は死んでしまうことが知られている。このことは、恐らく人間でも同じことだろうと考えられている。  

 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある。その中にもステージがあるが、ノンレム睡眠の方がレム睡眠より深い。睡眠は夜レム睡眠-ノンレム睡眠のセットが5、6回繰り返され、起床する。そのため、夢を見ていることの多いレム睡眠が多い不眠症の患者などでは、熟眠感が得られにくい。ノンレム睡眠は視床下部の外側視索前野の活性化によって生じ、レム睡眠ではアセチルコリン作動性ニューロンの活性化によってそれが起こる。  

 次に水分調節である。人間の体の60パーセントは水分であることはご存知の方も多いであろう。人間の水分調節には2種類のものがある。  

 ひとつは、浸透圧性水分調節である。発汗によって水分が体から減少するときや、塩辛いものを食べたために細胞外液の浸透圧が高まり、細胞内から水分が失われる。これを終板器官およびその付近で検知し、視床下部前方にその情報が送られ、水分摂取の欲求が発する。もうひとつは、出血などによる体液量性調節であり、腎臓や心房で血流量低下が検知され、これも視床下部前方に情報が送られ、水分補給の欲求が始発する。  

 最後に、食欲について述べる。体内のブドウ糖や脂肪が不足すると、肝臓が利用可能なエネルギー量を検知し、不足が生じると迷走神経を経由して視床下部外側野にそれを伝える。ブドウ糖にかんしては、脳内にも検出器があり、同じく視床下部外側野に情報を伝達する。ここは、電気的または化学的に刺激すると食欲が生じるので、「摂食中枢」と呼ばれている。脂肪が過剰になると、脂肪細胞からレプチンが分泌され、胃や肝臓からの食物情報と総合されて視床下部外側野の活性化を抑制し、満腹感を生じさせるとともに、食欲を抑制する。  

 ところで、ストレスなどで胃をやられたという経験のある方も多いことであろう。このような場合には、グルココルチコイドが医師から投薬される。炎症を抑える働きがあるためである。  

 我々の文化の中に、「目で食べる」と言う表現があるように、ただ単に上記のメカニズムだけでは説明できない部分も多い。統覚のような知覚メカニズムや食生活習慣などの文化的要因も人間の欲求には深く関わっている。

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