講座 心理学概論 7 認知心理学 14 認知バイアス

 我々の物事に対する認知は、あることを認知する前に何らかの情報を与えられていたならば、認知が情報を与えられなかった場合と比べて正確に認知されない場合がある。このような「認知のねじ曲がり」のことを総称して「認知バイアス」と言う。  

 まずは選挙にかんする認知バイアスから説明する。マスコミなどによって、選挙の優勢が伝えられた候補者は、有権者のさらなる票の上積みが起きることがある。また、劣勢が伝えられた候補者にも同様の票の上積みが見られることがある。前者を「バンドワゴン効果(勝ち馬効果)」、後者を「アンダードッグ効果(負け犬効果)」と言う。また、集団で判断を下す場合に、極端な判断が下されることが多い。より安全で無難な判断に傾く傾向のことを「コーシャスシフト」、よりギャンブル的で危険な判断に傾く傾向のことを「リスキーシフト」と呼ぶ。

  アッシュの印象形成の研究から、他の性格描写語は全く同じだが、一項目だけ「暖かい」「冷たい」と描写すると、好感度が真逆になることが確かめられた。このように、重要な人格手がかりを中心として例えば性格判断がなされるような効果のことを「ハロー効果」と言う。  

 1973年、電車の中で女子高生が「信用金庫は危ない」と言う噂をしたところ、その噂が瞬く間に広がり、豊川信用金庫で取り付け騒ぎが起き、実際に危なくなったことがある。このように、自分が持っている先入観などが実際に先入観のような事態を引き起こすことがある。これを「自己成就預言」と言う。  

 事前にあることの特徴などを与えられると、判断が特徴に引きずられ、より特徴と合致した判断をすることがある。これを「アンカリング」と言う。  

 P.C.ウェイソンが考えた「4枚カード問題」のように、「もし表に母音字が書いてあれば、裏は偶数である」と言うルールを使って、「E、K、4、7」と言うカードのうち、「ルールが守られていることを確かめるために最低でもめくってみるべきカードは何か?」と言う問題を大学生の被験者たちに解かせたところ、「E」ないし「Eと4」と答える者がほとんどで、「Eと7」と言う正解に達した者はごくわずかであった。本当は7の裏に母音字が書いてあればルール違反なので、「7」をめくってみるべきなのである。このように、自分にとって「分かりやすい」結論を前提から導き出してしまうバイアスのことを「確証バイアス」と言う。また、失敗の原因は環境に、成功の原因は自分に帰属させる傾向のことを「自己奉仕バイアス」と言う。  

 読者の中には占いを信じるという方も少なからずいるのではないだろうか。占いは誰にでも言えそうなことしか予言しないので、「当たっている」と感じやすい。これを「バーナム効果」と言う。  

 最後に、教師が「この子には才能がありそうだ」と暗示されると、実際にその生徒の成績が上がる。この土台となったのがローゼンソールによるネズミの学習についての実験だった。「実験者」に、実際はランダムに選ばれたネズミの二群を、「このネズミは学習能力に優れている」と言って「実験者」に渡した一群と、「このネズミはのろまで学習能力も低い」と言って「実験者」に渡した一群との間でネズミの学習にどんな影響があるかを検討した研究で、優秀群の方がのろま群よりも高い学習成績を残すことが検証された。人間、潜在的にある人物の能力についての認識を持っていると、その認識が実際にある人物の能力に影響するのである。「私ができが悪かったから、子どももできが悪い」などと心のどこかで思っていると、本当にできの悪い子どもに育ってしまう可能性がある。注意したいことではないだろうか。

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