講座 心理学概論 7 認知心理学 13 認知症

 読者諸氏の身の回りに、極端な記憶力の低下を来しているひとはいないだろうか。数分前にしたことを覚えていないようなひとはいないだろうか。  

 記憶の三要素は「記銘、保持、再生」である。このうちいずれに障害が生じても、記憶力の急激あるいは緩徐進行な低下は起こりうる。これを「記憶障害」と呼ぶ。もしこれに臨床心理学の章で触れる「失語、失認、失行、実行機能障害」のうち何れかが認められ、それらにより職業的・社会的生活が営めなくなってしまっている場合に、そのひとは「認知症(dementia;2004年までは痴呆症と呼ばれており、心理学関係のひとで認知症という用語を認めないひともいる)」と診断される。  

 認知症の原因は様々であるが、一昔前の日本においては脳血管性認知症、すなわち脳の血管に梗塞などが生じることが原因で起きる認知症が多いことが欧米と比べての特徴であった。しかし、生活の欧米化に伴い欧米で多発していたβアミロイドタンパクの蓄積による神経細胞死が原因のアルツハイマー型認知症が近年顕著に増加した。そのほかにも、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあり、これまで挙げた認知症が「四大認知症」と呼ばれている。他にも認知症の原因として、アルコール依存症、エイズ、正常圧水頭症、低栄養、脳腫瘍などが挙げられている。  

 認知症には、中核症状と周辺症状がある。中核症状は上記の通りであるので割愛するとして、周辺症状には徘徊、暴力、幻覚、妄想、異食、抑うつ、不潔などがあり、これらの症状のことを行動心理徴候(BPSD)と言うこともある。  

 認知症は全人口の6~7パーセントを占めると言われており、65歳以降に発症するひとがほとんどである。65歳人口ではその全体の1パーセント程度の罹患率でしかないが、80歳以上になるとその全体の20~30パーセントが罹患している。  

 認知症に罹患しているひとに、その異常行為を叱ることは治療上むしろ逆効果であり、無意味である。現在進行形で様々な薬が開発途上であるが、心理学的援助としては、支持的心理療法、回想法、記憶リハビリテーション、見当識訓練、芸術療法などで進行の予防・改善をはかるなどの方法がある。  

 認知症は広くは、これまで問題にしてきた記憶障害の他に、言語能力障害、思考障害なども指して考えられることも多い。しかし、ひとの成長途上の知的、社会的、コミュニケーション的側面の障害である知的障害や発達障害(自閉症、アスペルガー症候群、ダウン症など)とは明確に区別される。  

  認知症の診断学で分かっていることは、記憶を司ると考えられている海馬の萎縮が報告され、脳血管性認知症においては、初期には梗塞を起こした脳部位が担っていると考えられる機能だけが低下し、「まだら呆け」、「ザルの目認知症」等と呼ばれることもあるが、病状が進行するにつれて、他の認知症と区別することが難しくなる。このことは、あらゆる認知症にも言えることである。

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