講座 心理学概論 7 認知心理学 12 認知の残存の規定因

 我々の認知が残存、すなわち記憶として残るのには、「処理水準説」と言う考え方が有力な仮説として提起されていることは既に述べたとおりである。  

 しかし、心理学を勉強中の大学生諸氏は、心理学基礎実験ですでに実験済みかも知れないが、他にも様々な要因があることを指摘することができるものと思う。ここでは、それらについてまとめてみる。  

 そんな大学生諸氏がまず指摘するであろう現象が、「初頭効果」と「新近効果」だと思う。有意味語のリストを作る。そしてそれを一定の順番で被験者群に提示し、全有意味語提示後に「順番を問わず思い出せるだけ思い出してください」とお願いする。すると、再生率を被験者群内で出してグラフにすると、縦軸に再生率、横軸に提示順序とした場合、グラフがU字型になることが分かるであろう。このように、有意味語の提示順序によって再生率が変化する現象のことを「系列位置効果」と言い、最初の刺激の再生率が高くなる現象のことを「初頭効果」、最後の刺激の再生率が高くなる現象のことを「新近効果」と呼ぶのである。  

 なぜこのような現象が生ずるのかについて、アトキンソンとシフリンは既に触れた「記憶の二重貯蔵説」の立場から説明を試みている。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があると言う考え方である。「初頭効果」は「長期記憶」に定着したばかりの刺激が思い出されやすいため生じ、「新近効果」は「短期記憶」にまだ残存している刺激の痕跡が再生率を高めるため生じるという説明が可能だという。  

 だが、「16,29,87,サクラ、64、10、53・・・」と言う記憶リストが提示されたと仮定すれば、「サクラ」だけが極端に記憶されやすくなるという現象もある。これを「孤立効果」と言う。  

 他にも、「5103」を「ゴトウさん」と覚えると覚えやすくなる「語呂合わせ」とか、英単語の記憶の際に単語が無意味綴りの時よりも有意味綴りの時の方が単語に含まれる文字を正確に覚えているという「単語優位性効果」、体験の出来事は記憶されやすいという「エピソード記憶」などがある。   

 我々の記憶が時とともに薄れてゆくことは、人間誰しも体験があることであろう。この現象の説明には2つの仮説が提起された。1つは、記憶そのものが弱まっていくという「衰弱説」であり、もう1つは、記憶が弱まるからではなく、記憶に干渉する刺激が次々に与えられるからだとする「干渉説」である。この仮説のうちいずれが正しいのかについての実験が行われた。もし衰弱説が正しいとするならば、後に晒された刺激の有無にかかわらず一定の時間経過とともに記憶成績が低下して行くであろう。そこで、2群に分けられた被験者群を用いて、一群では記憶材料を記憶してもらってからどれだけかの時間を起きて過ごしてもらい再生をしてもらい、もう一群の被験者群には記憶直後に眠ってもらって起きた時に再生してもらうという手続きで実験を行い、再生率に差があるかを検討した。結果は、眠った群の被験者の方が起きていた群の被験者より顕著に再生率が高くなると言うものだった。従って、干渉説が正しいことが実証された。

 ただ、筆者の見識を述べると、やみくもに記憶が一意に規定されると言う上記の実験の前提自体が少々視野の狭いものになっていないか、と言う疑念が残る。たとえば、興味が記憶に影響していたり、カテゴリーの明確さもそうだったり、社会的インパクトのあることとないこと、身近なこととそうでないことはやはり記憶に影響しているだろう、と思わないわけにはいかない。  

 話を冒頭に戻すと、たとえば結婚式のスピーチで、出席者の記憶に残したい話題は、スピーチの冒頭と末尾に話すと効果的なことが分かるであろう。ただし新近効果はやがて忘却されるので、末尾に話した話題は即時に出席者たちの話題になったりしなければ効果的ではないことを付言しておく。

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