講座 心理学概論 7 認知心理学 3 活性化拡散モデル

 我々は、ある言葉を与えられると、それに関連した概念を思い浮かべることが多いのではないだろうか。例えば「牛」と言われれば「肉」「草」「複数の胃」などを思い浮かべ易いであろう。  

 このような事象に着目して、キリアンは概念と概念の間にリンクが多いほど概念は意識からアクセスしやすくなると言う「意味ネットワークモデル」を提唱した。彼は主語と述語を被験者に見せ、それらからなる文の真偽判断をさせる実験をした。結果は、検索されるリンクの数が多いほど判断にかかる時間は短くなり、この説は正しいことが実証された。  

 しかし、これに対しリップスは、連想強度の高い文の真偽判断の方が、連想強度の低い文の真偽判断よりも判断にかかる時間は短いことを見出したのである。リンクの数よりも、意味的関連度が強い判断が時間的に短く判断されると言うことは、キリアンのモデルでは想定されていないことだった。  

 この事実に基づき、コリンズとロフタスは、キリアンのモデルに意味的関連度および処理過程の概念を導入して修正し、それを「活性化拡散モデル」と呼んだのである。ある意味が思い浮かんだとき、それと関連する諸概念が一時的に意識からアクセスしやすくなる。このことを「活性化拡散」と言うのである。  

 活性化拡散モデルで説明できる事象のひとつに、プライミング効果がある。プライミング効果とは、先行する刺激が後続の刺激を促進することであり、間接プライミング効果と直接プライミング効果の2種類が知られている。  

 間接プライミング効果の実験は、メイヤーとシュヴァネヴァルトの実験が有名である。彼らは語彙が単語か否かの判断を2つのプライム(先行刺激)とターゲット(後続刺激)について被験者に行ってもらった。すると、語彙間の意味的関連度が高いプライムとターゲットの方がターゲットの反応潜時(刺激の提示から反応までの時間)が短いことを確認した。  

 直接プライミング効果の実験は、「夏」という刺激の後に「せ□□うき」という文字列を提示し、□にどのような言葉が入るかを答えてもらう実験で行うことが出来る。もし先行刺激が「空」だった場合に比べ「夏」だった方が、つまり意味的関連度が高かった方が「せんぷうき」と正しく答えることが早く出来ることが確認できる。  

 プライミング効果は我々の思念について教えてくれるところも大きい一方、問題もないわけではない。たとえば「ど忘れ」や「喉まで言葉が出かかっているのに言えない」チップ・オブ・タン現象など、プライムとターゲットがいかに意味的関連度が強くても起こる心理現象があることなどが未だこの理論では説明できないという問題がある。考え方がコンピューター・サイエンスと密接に結びついているところに、限界がありそうである。この問題については「アクション・スリップ」の項で扱うこととする。

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