我々の認知は何を認知しやすいだろうか。誘目性の高いもの、興味のあるもの、必要性が高いもの・・・答えは様々あるであろう。
この我々の認知のしやすさと言うことにかんして、刺激の大きさという観点に着目した仮説が提出された。それを検証した実験を見てゆくことにしよう。
アルファベットの大文字1文字をひとつずつの要素としてさらに大きな大文字1文字を作る。そしてそれを被験者に提示する。小さな大文字、大きな大文字、どちらが速く認知されるであろうか。一般に、大きな大文字の方が速く認知されるという知見がナヴォンによって得られ、彼はこれを「グローバル優先仮説」と呼んだのである。
我々は新聞を読むとき、記事よりも大見出しの方を先に認知しているのではないだろうか。こうした日常的な体験を介して、この仮説を理解することが出来るだろう。
これを理論的に裏付ける神経心理学的知見が報告されている。我々の視覚には、低い空間周波数の刺激に対して、応答スピードが速くて周辺刺激にも良く反応する「一過性チャネル」と、高い空間周波数の刺激に対して、応答スピードが遅くて周辺刺激には反応しない「持続性チャネル」という2種類のチャネルがあることが明らかにされている。文字が大きいと言うことは空間周波数が低いことを意味するからその応答スピードが速く、文字が小さいと言うことは空間周波数が高いことを意味するからその応答スピードは遅い、と言う説明が可能であるから、グローバル優先仮説はこれらのチャネル特性から来る必然的な帰結だと言うことが出来るだろう。
しかし、問題がないわけではない。クリスマスなどに高層ビルの窓を任意の図柄や文字になるように部屋の照明をつけたり消したりするのをテレビなどで見たことのある方も多いであろう。もし自分がこのビルの正面を歩いているとして、その図柄や文字を認知できるであろうか。恐らくそれは無理だろう。このことは刺激が大きさえすれば良いというものではなくて、グローバル優先仮説で考えられている刺激の大きさは程度問題だと言うことを押さえておかねばならないだろう。
この仮説は人間工学に対して重要な示唆を与えるものである。たとえば自動車・航空機の計器類はどのくらいの大きさが適切かだとか、看板の大きさがどの程度であれば集客効果があるかだとかの実用的な問題にかかわるものだからである。それだけではなくて、デザイン全般についてもこの仮説は考えさせるものを持っている。もちろん、適度な緊張とか考慮すべき他の条件を満たしていることが、たとえば自動車・航空機の計器類には求められる。その範囲の話であることは忘れないでいてもらいたい。