講座 心理学概論 6 知覚心理学 9 グローバル優先仮説

 年末になると、クリスマスのイルミネーションでビルの窓をモミの木のようにライトアップしたりする光景が散見されるが、美しいものである。このように、窓の点灯消灯によって浮かび上がるモミの木などの図や字は、要素となる窓よりも遙かに大きいことから「グローバル文字列」と呼ばれる。   

 1977年、ナヴォンは文字複合文字列、つまりたとえば小さなSを沢山配して大きなHをなす文字列を使って画期的な実験をした。例えば、小さなS・H・Oのいずれかで作られた複合文字列S・H・Oを瞬間的に被験者に呈示して、大きな文字列あるいは小さな文字をできるだけ速く答えるよう求め、結果を検討した。その結果、2つのことが分かった。  

 ひとつは、大きな文字を答えるように求めた条件の方が小さな文字を答えるよう求めた条件より一貫して大きな文字を答えるよう求めた条件の方が答えるのが速かった、という事実で、ふたつめは、小さな文字と大きな文字が違った文字の条件の場合、小さな文字を答えるよう求めた条件で明らかに答える早さが遅かったという事実である。ナヴォンはこれを大きな文字の小さな文字への干渉と見なした。  

 これらの事実から、刺激文字列は、まずグローバルな形態が先に把握され、それから小さな文字の認識が続くという「グローバル優先仮説」をナヴォンは提唱した。  

 折も折、この頃には視覚には2つのチャネルがあることが明らかになっていた。「一過性チャネル」と「持続性チャネル」の2つである。「一過性チャネル」は低い空間周波数によく応答し、反応スピードが速く、周辺領域の刺激にもよく反応する。これに対し「持続性チャネル」は高い空間周波数の刺激に反応し、反応スピードは遅く、中心領域の刺激にしか反応しない。  

 そのようなことが分かっていたため、低い空間周波数を持つ大きな文字には「一過性チャネル」が働いて反応スピードが速く、高い空間周波数を持つ小さな文字には反応が遅れるのだと解された。  

 ただし、この指摘には注意が必要である。冒頭のビルのクリスマスツリーのように相当離れないと認識できない複合文字列もある訳で、視角内の「ほどよい大きさ」が重要だと言う点である。  

 以上、「文字定位」の問題を「文字の大きさ」という視点から振り返ってみた。

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