講座 心理学概論 6 知覚心理学 7 知覚-運動協応

 我々の目には、環境像が光学的に上下左右反転して光が届いている。なのにどうして我々はそうは世界を見ないのであろうか。  

 これには、学習が絡んでいる。19世紀末、ストラットンは「反転眼鏡」の着用実験を行った。「反転眼鏡」とは、上下左右が逆さまに見える眼鏡のことである(このような眼鏡のことを「視野変換鏡」という)。  

 この眼鏡で逆転した世界を見ながら生活すると、はじめの数日は極度の困難に陥り、体が分裂したかのような違和感を覚え、車酔いに似た症状を示すが、1週間もすると何の困難もなく行動できるようになることが分かった。このような学習を「知覚-運動協応」の学習という。  

 このことは、視野をずらした眼鏡や、90°の角度差がある眼鏡でも言えることが分かった。  

 これらのことが意味することは、網膜像にいかに外界を変換して映らせようとも、我々はそれに適応できる、と言うことである。ちなみに視野変換眼鏡を外したときには数時間から1日程度で元の環境に適応できるようになる。  

 冒頭の疑問は、かくして解決が与えられる。  

 これと似た課題として心理学でよく使われる装置に「鏡映描写」器がある。鏡に映った線分のみを見て、それをペンでなぞる課題である。  

 被験者ははじめ数時間から数十分かけて図形を辿り終えるが、試行を繰り返しているうちに、鏡がない条件と変わらぬまでに辿る時間が短くなる。この場合は鏡を見ない条件のパフォーマンスが落ちる現象は見られない。  

 さらに興味深いことは、右手で鏡映描写に慣れたところで、左手で同じ課題をやってもらってみても、学習の効果が見られることである。学習心理学では先発の学習が後続の学習に影響を与えるとき、「学習が転移した」という。促進的な場合が「正の転移(又は単に転移)」、妨害的な場合が「負の転移」である。この場合右手と左手の学習に転移が見られる訳で、これを「両側性転移」という。  

 このように、我々の知覚という心の表面的段階ですでに学習のメカニズムが働いていると言うことは、この現象が知覚の定義、すなわち「感覚器から脳内の過程までを含む」と言うくだりがどう言う意味を持っているのかを明らかにする上でも考えさせられる事例だと言って良いであろう。

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