
「錯視」とは単なる見間違えとは違って、上図のような目を欺く図形のことを言う。「ミューラー・リヤー錯視」の図をご覧頂きたい。自然と上の矢の軸の方が下のそれよりも短く感じられる。これは、我々が同じ長さの線分であっても、それを「違う」と思わせるに十分な知覚的特質をそれらは備えているのである。「ミューラー・リヤー錯視」にかんして言うと、下の図形では軸が「出っ張って」見え、上の図では軸は「奥まって」見える。この錯視を説明する有名な仮説に「グレゴリーの仮説」がある。矢羽根がなす角度をコーナーとして見るからこの錯視が起こると言うものである。ならば奥行き知覚の生じない単眼視ではどうかを見てみればよい。筆者はたぶん、線分の起点・終点が明確でないことによりこの錯視が生ずると考える。
このように、錯視図形が我々に語りかけるものとは、「我々は常に知覚の恒常性を保とうとして環境を見ている」ことなのである。
読者の皆さんは、「では他の錯視図形をいかにして知覚の恒常性との関係で捉えるか」について、演習問題だと思って挑戦して欲しい。