講座 心理学概論 6 知覚心理学 1 感覚と知覚

 なぜ心理学では「感覚」や「知覚」を問題にするのであろうか。  

 初期の研究がこのようなテーマを特に強調するものであったことも関係しているが、その頃は「心的要素」がこれらからなると考えられていたためで、現代心理学ではもはやその影はない。それなのに相変わらずこれらを研究しているのは、「目は心の窓」と言うように、外界と心を結ぶ重要な連絡路だと考えられているためである。  

 では「感覚」と「知覚」はどう違うのだろうか。  

 この問題に答えるのは難しい。  

 そこで、現実にこれらの用語が用いられている例から考えていこうと思う。  

 「味覚」は「感覚」でもあるが、「知覚」でもありうる。では目の「奥行き知覚」ではどうだろうか。「奥行き感覚」と言う用語は存在しない。同様に「錯視」現象は「知覚心理学」の一大テーマではあるが、「感覚心理学」のテーマではない。これらのことから、比較的単純な刺激受容を「感覚」、そうでないものを「知覚」と呼んでいるらしいことまでは理解できたであろう。  

 もっと厳密に言おう。  

 「知覚」とは「感覚受容器から脳内の過程までの一連の刺激処理」のことを言う。したがって単に感覚するだけではなく、その脳内処理までを総称して「知覚」と呼ぶのである。  

 運動知覚から後の節で後述する「カクテルパーティー現象」まで、知覚研究は相当の広さと深さを持った領域である。さらに高次脳機能である「思考」などを含めた場合、それは「認知」と呼ばれる。  我々はこの章の中で、錯視、カクテルバーティー効果やマガーク効果や文脈効果、遠刺激と近刺激、恒常性、主観的輪郭、運動情報処理、視野の安定、奥行き知覚、知覚特性の応用などを扱う。あるテーマは新しく、あるテーマは昔から追求されてきたテーマである。  

 これらの諸テーマは、人間の世界認識の基本的メカニズムを知るという目的だけではなくて、前章で学んだ信号検出の理論のように、実用的な場面での実践にも役に立つものが少なくない。たとえば飛行機のコックピットをどう設計すべきかとか、いかにして福祉に役立てるか(例えば、お年寄りに優しい知覚世界の構築)とかの応用的諸問題の解決の糸口を探ると言った意味でも重要な問題であることは間違いないであろう。この意味で、現代ほど心理学に負わされた使命が大きい時代はないといえる。知覚の問題は、人間工学の問題の解決の良きヒントを与えるものなのである。

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