猟犬は追うべき獲物が何なのか判断できなくては、みずからの身を危険にさらすことになりかねない。
果たして動物は概念(カテゴリー)を学習することができるのだろうか。
概念は常に多形的である。「鳥」を「空を飛ぶもの」と定義してしまえば、ペンギンやダチョウは「鳥」ではないことになってしまう。カテゴリーの例として、「e、Z、A、u」という文字群を支配する法則は「母音か大文字か」のうち1つを満足するものの集合である。概念はこのように多形的であり、デジタルには変換できないという性質を持つ。
R.J.ハーンステインは、サルやハトにもカテゴリー学習が可能なことを示した最初のひとである。彼の研究のひとつにハトを被験体とした「樹」の弁別訓練がある。ハトに「樹」とそうでないもののスライドを見せ、「樹」に反応すれば報酬がもらえるという弁別訓練をした。
ハトは「セロリ」や「蔦」には反応せず、正しく「樹」のみに反応することが示された。
これらのことからF.S.ケラーやW.N.シェーンフェルドは、カテゴリー学習を「カテゴリー間の弁別とカテゴリー内の般化」と定義した。カテゴリーとは個々の刺激にクラスを対応させ、それに応じて同じクラスに属する刺激に同じ反応をすることである。
ハトは「特定の人」「魚」「水」「鳥」「人工物」なども弁別できることが判明している。このように動物の示すカテゴリー化は事例学習とカテゴリー内の類似性に基づく刺激般化で説明できると言う研究者も現れ、刺激の類似性の特性が加算されてカテゴリー学習が生ずるという特性加算モデルなどが提唱されている。
S.E.G.リーとハーンステインは、刺激クラスの共通の機能によって同一の反応ができるようになったとき、「機能的等価性が学習された」、すなわち概念が形成されたと考えて良いと主張し、新奇刺激にも反応を逆転する訓練において、逆転反応に般化するようであれば、機能的等価性が学習されたと言って良い、と考えた。ただし、刺激クラスが反応を決定していることが分かるような実験でなければ、この仮説はただの仮説のままである。見た目の類似性が反応を決定することを確認できたとしても、機能的等価性獲得のメルクマールにはならない。その点を考慮してヴァーンは類似性がバラバラになるように無作為に40枚のスライドを2セットに分けて実験し、結果を検討した。結果はハーンステインらの知見を支持するものだった。
動物も種によっては、適応の必要から概念獲得の能力を発達させたものと考えられる。有効な環境適応には、概念能力は強力な武器なのである。このことから言えることは、概念は一次的にコミュニケーションの必要から生まれた訳ではなさそうである、と言うことである。