講座 心理学概論 5 学習心理学 6 モデリング

 小さい頃、テレビや映画の主人公の真似をして遊んだことのある人も少なからずいることだろう。  

 心理学では、これを「モデリング」と言う。常識的には昔からあることだが、これを学習心理学のテーマとして初めて取り上げたのが、アルバート・バンデューラである。  

 それまで、ミラーとダラードの見解のように学習は強化を受けないと、現象として現れないと考えられてきた。これに異を唱え、真正面から対峙する理論を展開したのがバンデューラである。  

 彼の理論の基礎となった実験の概要を以下に示しておこう。  

 平均4歳3ヶ月児の保育園の幼児をまず自分と等身大の人形の置いてある部屋に入れて、ベースラインの攻撃行動を測定した。次に、大人がその人形に攻撃を加えている5分間の映画を見せた。最後に、子どもを元の部屋に戻し、10分間人形への攻撃行動が測定された。幼児たちは映画の内容によって3つの群に分けられた。映画中、別の大人が攻撃行動をした大人を賞賛する群、叱る群、それに別の大人が登場せずほめも叱られもしない統制群、の3群である。  

 結果はドラスティックなものだった。3群とも攻撃行動はベースラインより高くなったが、賞賛群と統制群がほぼ同じ高さで攻撃行動の増加を示したが、叱責群は有意にそれより攻撃行動が抑制されていた。  

 このことから明らかになったことは2つあった。ひとつは子どもたちは、他者の行動を見ただけでモデリングが成立するという事実(無報酬の模倣)であり、いまひとつは別に自分が叱られた訳ではなく映画に登場する大人が叱られただけなのに、攻撃行動は抑制されたという事実(代理強化)である。  

 この理論からすると、模倣と「見せしめ」は、一定は有効であることが理解されよう。  

 特に暴力映像は、登場人物が自分に似ているか魅力的で、暴力が正当化され賞賛の対象になっているようなとき、模倣されやすい。そこで、いくつかの対策が考えられているが、決定打になるようなものは見出されていないのが現状である。法で縛れば「表現の自由」が侵害されかねないし、配信元が暴力映像は深夜に配信する、事前にその事実を告知した上でレンタルをする(これを「レイティング」と言う)、などの自主的対策では業界主導となって守られるか疑わしく、たとい守られてもインターネットがこれだけ普及した社会では、どこまで徹底されるか疑問である。他に暴力映像に適切に接触し、影響を受けないようにする教育のことを「メディア・リテラシーの教育」と呼ぶが、体制を築き上げることは容易でなく、意識の低い家庭をどこまで動かせるかについては、見込みが薄い。当面は各自のモラルの問題として、啓発を行ってゆくのが最も現実的だと言える。

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