講座 心理学概論 5 学習心理学 5 学習性無力感

 試験にすべって、ショックから立ち直れない子もままいるようである。長引けば、「うつ」にもなりかねない。  

 M.E.P.セリグマンは、イヌを対象とした実験で、次のような事実を報告した。  

 イヌに回避不能な電撃を数試行与えると、たとい電撃を回避できる状況にイヌを置いたとしても、イヌは回避行動を取らない、と言う事実である。  

 この事実をセリグマンはこう解釈した。すなわち、イヌは電撃の回避不可能性を学習したか、反応-電撃の無関係性を学習したのである、と。  

 さらに興味深いこととして、イヌの示す症状が、ヒトの反応性うつ病に酷似していることが明らかとなった。  

 セリグマンはヒトを対象とした実験も行い、大騒音に暴露された大学生は簡単なアナグラム課題も解けなくなることを実証した。  

 これらのことからセリグマンは、学習性無力感には、動機づけ的・認知的・情動的の3つの側面があることを述べている。すなわち課題解決への意欲が低下し(動機づけ的)、簡単な課題も解けなくなり(認知的)、食欲不振・潰瘍発生・免疫低下(情動的)をもたらすと言うことである。この理論はラザラスのストレス理論に似ていることに注意して欲しい。  

 しかし、ヒトを対象とした実験では、学習性無力感に陥らないひともいたことも事実で、セリグマンはロッターの「ローカス・オブ・コントロール理論(統制の座理論)」を援用して、失敗の原因を我が身に帰属するひとは、失敗の原因を環境に帰属するひとと比べて悲観的で、学習性無力感に陥りやすいことも見出している。  

 失恋したり、会社で降格させられたりする体験は誰でも持っているだろうが、悲観的にならないことが学習性無力感に陥ることを防ぐ大きな要因であることは、常識的に考えても納得のゆくところだろう。  

 しかし、学習性無力感と言う現象が「惰性」なのか「学習能力の喪失」なのか、それとも「機能的固定性」のような認知的要因によるものなのかは明らかでない。

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