講座 心理学概論 2 心理学研究法 7 3つ以上の変数の差の検定・・・分散分析(2要因被検者内計画

 先の節でも述べたが、分散分析を流れる基本的な数理的根拠は「分散の大きい平均値ほど平均値としての意味は弱い」と言うことである。それを念頭にこの節も読んでいただきたい。  

 被検者それぞれがすべての条件について反応を求められるような調査・実験計画のことを「被検者内計画」と呼ぶ。このとき設定される条件のことを「要因」という。ここでは要因1が2水準、要因2が3水準であるような「2×3被検者内計画」の分散分析について述べる。  

 

 例:5人の被検者に酒の銘柄「安東水軍」「剣菱」2銘柄について「冷や」「常温」「熱燗」3条件で美味しい順に10点から1点までの点数で評価してもらった。このデータについて5%水準で分散分析を行いなさい。           

条件      「安東水軍」

被験者  加藤  井上  芝崎  田中  石田

「冷や」  5   6   4   6   7

「常温」  6   6   6   7   7

「熱燗」  9   7   8   8   9

 

条件       「剣菱」

被験者  加藤  井上  芝崎  田中  石田

「冷や」 10   9   9   9   8

「常温」  8   6   7   6   7

「熱燗」  7   4   5   3   6

 理念的に全体平方和は以下のように分解する。

 全体平方和=要因1の主効果の平方和+要因2の主効果の平方和+交互作用の平方和+誤差の平方和(個人差の平方和+要因1に対する誤差の平方和+要因2に対する誤差の平方和+交互作用に対する誤差の平方和*) *・・・2要因の個人間計画では括弧内は一括して誤差の平方和として扱う

 まず、全体平方和を求める。

 全体平方和=14.67+8×2+3.35×2+0.69×8+0.03×7+1.37×4+4.71×5+10.05=16+6.7+5.52+0.21+5.48+23.55+10.05 =82.18

 要因1の主効果の平方和は、要因2の各水準をまとめて要因1の各水準の平均-全平均を二乗してそれぞれのサンプル数をかけたものを足し合わせて求める。このさい、次のような表を作っておくと便利である。    

条件  「冷や」 「常温」 「熱燗」 平均

安東水軍 5.6  6.4  8.2 6.73

剣菱   9.0  6.8  5.0 6.93

平均   7.3  6.6  6.6 6.83

要因1についての表

各被験者 AllMean Mean1   Mean2

加藤   7.5  6.67   8.33

井上   6.3  6.33   6.33

芝崎   6.5  6.00   7.00

田中   6.5  7.00   6.00

石田   7.3  7.67   7.00

 

要因2についての表

各被験者 AllMean Mean1 Mean2 Mean3 

加藤   7.5  7.5 7.0 8.0

井上   6.3  7.5 6.0 5.5

芝崎   6.5  6.5 6.5 6.5

田中   6.5  7.5 6.5 5.5

石田   7.3  7.5 7.0 7.5

 要因1(銘柄)の主効果の平方和は、  

 A1+A2=0.10二乗×15+0.10二乗×15    =0.30  

 同様にして要因2(冷やか常温か熱燗か)の主効果の平方和は、  

 B1+B2+B3=2.21+0.50+0.50      =3.21  

交互作用の平方和は上の表の全条件についてのセル平均-全平均の二乗和-要因1の主効果の平方和-要因2の主効果の平方和であるから、  

 A×B=7.56+0.92+9.38+23.54+0.00+16.74-0.30-3.21      =56.43  

 次いで誤差の平方和を求める。誤差の平方和は全データについてセル平均との差の二乗を求め、総和したものである。  

 誤差平方和=0.36+0.16+2.56+0.16+1.96        +0.16+0.16+0.16+0.36+0.36        +0.64+1.44+0.04+0.04+0.64        +1.00+0.00+0.00+0.00+1.00        +1.44+0.64+0.04+0.64+0.04        +4.00+1.00+0.00+4.00+1.00        =24.00 (小数点2桁以降丸め数値で計算しているため、全平均平方和≠要因1の主効果の平方和+要因2の主効果の平方和+交互作用の平方和+誤差平方和、と値が若干違っているが、お許し頂きたい)  

 誤差平方和の中身であるが、個人差の平方和・要因1に対する誤差の平方和・要因2に対する誤差の平方和・交互作用に対する誤差の平方和に分解できる。  個人差の平方和であるが、各被検者の平均と全平均との差の二乗をデータ数だけ掛け全被検者で総和すれば求められる。この場合だと、  

 個人差の平方和=(0.45+0.28+0.11+0.11+0.22)×6         =7.02  

 次いで、要因1に対する誤差の平方和を求める。まずは上表「要因1についての表」の各セルから全平均を引いて2乗する。そして個人差と要因1の主効果をそこから引いた値が要因1に対する誤差の平方和ということになる。すなわち、  

 要因1に対する誤差の平方和=0.09+0.75+2.07+0.09+2.12+6.75+0.75+0.09+2.07+0.09           =14.87-7.02-0.30 =7.55  

 同様にして要因2に対する誤差の平方和を求める。今度は個人差と要因2の主効果を「要因2についての表」の各セルから全平均を引いて2乗したものから減じる。  

 要因2に対する誤差の平方和=0.90+0.90+0.22+0.90+0.90+0.06+1.38+0.22+0.22+0.06+2.74+3.54+0.22+3.54+0.90 =16.7-7.02-3.21          =6.47  

 交互作用に対する誤差の平方和の求め方は誤差平方和から個人差の平方和と要因1に対する誤差の平方和と要因2に対する誤差の平方和を引けば求まる。よって、  交互作用に対する誤差の平方和=24.00-7.02-7.55-6.47          =2.96  

 ここまでで、求めるべき数値はすべて出揃った。分散分析表を作成してみよう。        ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因  平方和 自由度  平均平方   F        ――――――――――――――――――――――――――――――――           個人差 7.02  4  1.76        ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因1 0.30  1  0.30 0.16  

         S1誤差 7.55  4  1.89                                   ――――――――――――――――――――――――――――――――           要因2 3.21  2  1.61 1.99 

         S2誤差 6.47    8     0.81          ――――――――――――――――――――――――――――――――                                                                            交互作用          56.43 2 28.22 76.27

        その誤差  2.96  8  0.37              ――――――――――――――――――――――――――――――――           全体  82.18 29        ――――――――――――――――――――――――――――――――

 結果、要因1・2の主効果は有意差なし、交互作用が5%水準で有意となった。要するに酒の銘柄や温度それ単独ではその酒のおいしさは決まらず、いずれかの組み合わせ方が酒のおいしさを左右している、という結果が出たことを意味する。 

 

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