講座 心理学概論 1 神経心理学 5 ここまででの哲学的問題

 受容体への刺激物質への結合などは、味覚や嗅覚に一般的に見られる現象であるが、味覚や嗅覚と言った主観的体験とそれをひきおこす神経心理学的作用機序の関係について考えてみたい。  

 旧来これらの問題は心身二元論あるいは心理-物理平行説で語られてくることが多かった。しかし「分析」という理性主観による作用の認識と現象認識という主観的認識を分けて考えるからこのような問題構制が提起されてくるわけで、同じ現象認識が異なる作用過程(GABA系神経の興奮とセロトニン系神経の興奮)、違う現象認識が同じ作用過程(錯視や文脈効果)をもたらしうることから、単純な心身二元論では行き詰まりが来るのはことの必然である。このような考え方をライルは「心の概念」のなかで「機械の中の幽霊のドグマ」と批判し、廣松は「カメラ・モデルの世界観」と呼んで批判した。一体我々はどう考えればよいのであろうか。   

 我々としては廣松の「関係主義」を汲みつつ次のように考えたい。心の中にある概念には、見るものと見られるものの関係性からの「現象」と「作用」と言うものが含まれる。これらは常に異型であるが、心を考えるときに必要かつ有用な概念である。「心」と「体」は不可分一体、つまり可変的な肉体が心であり、現象の陰には作用があり、作用の陽には現象がある。このように心は体の見えざる働きという捉え方もできる。ここまでこのようなことは説いてこなかった。それは、ここで一息ついて考えて欲しかったからである。  

 以上我々は「心と体」と言う二分法を超えて、「現象-作用異型説」と言う立場で神経心理学的問題を考えて行くことを、コーヒーブレークとしてここに述べておく。  

 さて、この先我々は脳の作用機序と機能局在について見て行くことにする。

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