「がん」の「利水力欠乏仮説」

 

 筆者は長年にわたり、さまざまな疾病の患者さんと出会う機会が多く、それは心理的な問題を抱えたひとであったり、身体疾患の患者さんであることも多かった。

 我が国においては、死因のトップは「がん」であり、5年生存率は70パーセントに届く勢いで医学も進歩してはいるが、未だに医学界には「がん」の病態の本質を捉えた説は登場してはいない。

 さまざまなひととのかかわりの中で、僕はがん患者さんを10人程度見てきたわけであるが、あるときふとがん患者さんに共通の特質ではないかと思う体質に気づいた。

 それは、がん患者さんの全身にわたる細胞内利水力(浸透圧調節機構の正常性)、分けても新鮮な水の代謝力が小さいのではないか、と言う観察上の知見である。

 もちろんそれは、よく化粧品のCMなどで訴求されているような「お肌のハリ、ツヤ」などと言う表面上の利水力のことではなく、人間の全身、あるいは五臓六腑に満ちあふれるような全体的な体細胞の利水力のことである。

 そしてそれは、全身の細胞の利水性浸透圧調節機構の問題なのであろう。それが証拠に「がん」で死ぬ海洋生物は(若干の貝類を除いて)大方いない(海洋のプラスチック片の散乱などにより今後海洋生物が「がん」に罹る可能性は否定できない)。また、多くの魚では浸透圧調節の役割が小さい。それはがんが腔腸動物特有の病気であることを意味する。がんは有機体の他のどの臓器よりもタンパク質合成のために栄養分を消費する。また、この事実はヒト小腸ではなぜ「がん」がほとんどできないかも説明する(言うまでもなくヒト小腸は体内で水分代謝が最も盛んであり、浸透圧調節機構の異常が起きにくい)。

 また、良く俗に「身体を温めるとがんになりにくい」と言う。これは、炎天下で仕事をするのとおなじように、身体を温めると水分代謝が活発化するからであると考えられる。ここにひとつの「がん予防薬」のヒントを見出すことはできないだろうか。筆者のインスピレーションでは石を栄養源とするバクテリアなどががんの予防や治療で有望なように思われる。

 加えて、水分滞留部位以外の水代謝が活発な、脇や股のような常に水代謝を行っている部位には「がん」は発生しない。妊婦や胎児にも「がん」は好発しない。水分再代謝の活発な体部位に「がん」は好発する。

 「がん」になる条件研究は山際勝三郎と市川厚一の先駆的研究から我が国では盛んであるが、「がん」の病態的本質についての究明はこれまでほとんどなされてこなかった。確かに、我が国のがん学会などではタンパク質燃焼物質である「トリプP1」などの発がん性物質の解明には血のにじむような努力がなされてきた。ただ、ひとつ筆者にとって気がかりなのは、それだけですべてのがんが説明できない、と言うところなのである。

 もともと僕は「がん」と聴いたときにひとつのインスピレーションを持った。それは、「(新鮮な水代謝の滞留の結果)生化学的な塩基配列か何か(たとえば、浸透圧調節の異常による酸素代謝機構)がねじれている」と言うものであった。以上に書いた「利水力」に限らずこのインスピレーションで「がん」を見てゆけば、いずれ自ずと「がん」の病態の本質をつかめるだろう。

 この知見が何らかの形でがんの予防や治療のヒントになれば幸いである。

 ※HIVの発生機序と治療のヒントは「腸内フローラ」にあると見ているが、詳しいお話は後日改めて書くことにする。

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