講座 心理学概論 12 臨床心理学 10 その他の心理療法

 さて、長らく続いてきたこの「講座 心理学概論」もこの節で完結となる。  

 最後のテーマは、「その他の心理療法」である。  

 その他の心理療法を8つに大別して概観する。1つ目に「フォーカシング」、2つ目に「エンカウンターグループ」、3つ目に「コミュニティアプローチ」、4つ目に「箱庭療法」、5つ目に「論理療法」、6つ目に「トークンエコノミー法」、7つ目に「心理劇」、最後に「日本の心理療法」を見てゆく。  

 ロジャーズの弟子のジェンドリンは「体験過程論」と言う視点から「フォーカシング」と言う心理療法を考え出した。漠然と感じている何とも言いようのない心理的感覚を「フェルトセンス」と呼び、これを徐々に明確化していく作業のことを「フォーカシング」と呼んでいる。主に人格的成長を志向するひとびとに行われる。  

 ロジャーズは、「評することのない言いっ放し一期一会集団」のことを「エンカウンターグループ」と呼び、有名なところでは1985年にオーストリアのルストで行われた世界17ヶ国の政治・思想リーダーのそれがある。  

 大きく「コミュニティアプローチ」と括ってあるが、その中には家族療法とコミュニティ心理学アプローチが含まれている。  

 家族療法は、家族が患者に心理的巻き込まれの程度が高いほど統合失調症の発症リスクが高いことから注目された心理療法であり、患者への家族の接し方や感情的な巻き込まれを抑えることを教授することによって患者の症状を軽減するアプローチである。  

 コミュニティ心理学アプローチは、カプランが提唱した地域精神衛生のためのモデルである。従来の待機型の臨床心理学的アプローチではいじめや虐待などの問題に対処しきれないので、環境やシステムへの働きかけを重視する予防的・教育的アプローチで、学校教育臨床の現場では常識となっている。  

 「箱庭療法」は、心に問題を抱える子ども向けの心理治療パッケージであり、カルフが考案した57×7×72センチの内法が水を象徴する青色に塗られた箱庭の中に砂が入れられており、子どもにそこに玩具などを並べてもらい、子どもの心を忖度しながら経過を観察するプレイセラピーである。砂は治療効果があると言われている。  

 「論理療法」はエリスが創始した心理療法で、認知行動療法に似ている。「ABCDEシェマ」と言う流れで治療を進める。出来事(A)があって、誤った信念(B)があるために、おかしな結果(C)になるのを論駁(D)することによって治療効果(E)を得ようとする心理療法である。    

 「トークンエコノミー法」は、精神科病院の病棟や老人介護施設などで「トークン(代用貨幣)」を用いて患者や施設利用者が望ましい行動をしたときにご褒美としてトークンを与え、一定程度のトークンが貯まったら、物品やサービスと交換できるようにする方法である。対象者の意欲を引き出すために行われている治療プログラムの1つである。  

 「心理劇」はソシオメトリーを考案したモレノが考えた心理療法で、抑うつや神経症の治療に用いられる。クライエントの心の問題に関する即興劇を自分と補助自我を演ずる者の2者によって演ずるのであるが、補助自我者に自分の演じたそのままを演じさせる「鏡映法(ミラー)」、補助自我者と途中で役割を入れ替えて相手の気持ちを味わわせる「役割交換法(リバーサル)」、補助自我にもうひとりの自分を演じてもらう「二重自我法(ダブル)」の3種類がある。  

 最後に日本の心理療法として有名な2つの心理療法を紹介する。  

 森田正馬によって考案された「森田療法」は、患者は入院して完全な安静状態の第1期から、社会的接触の多い第4期までを経験する中で神経症を治療していく作業療法である。  

 吉本伊信によって考案された「内観療法」では、患者は屏風で仕切られたスペースであぐらをかいて食事以外の時間を「内観3項目(「世話になったこと」・「して返したこと」・「迷惑をかけたこと」)」の周囲のひとびととのかかわりを振り返って内省することによって人間性を回復しようとする心理療法である。  

 さて、長きにわたって執筆してきたこの「講座 心理学概論」であるが、校了に当たって思い出を振り返っておこう。  

 筆者ははじめは、「この仕事はライフワークになるかも知れない」と思っていた。それは、心理学と言う学問が非常に広い内容を含み、また人間および人間性についての多くの示唆を与える学問だからである。  

 それがこれほどまでに予定をはるかに超える短期間の間に書けたことはとても筆者として感慨深い。それもこれも国の指定難病である胸椎黄色靭帯骨化症への罹患によってもたらされた膨大な暇の賜物に他ならない。  

 もともとの趣旨は、心理学検定受検者に必要にして十分な心理学の知識を身に付けていただくことにあった。その趣旨がどこまで達成できたかは、彼らが心理学検定を受けるに当たってどれだけ資したかが的確な測度になるだろう。  

 最後に、心理学検定受検者のひとりでも多い合格を期して、この拙い「講座 心理学概論」の最後の言葉とする。

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